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レッド・メモリアル Episode01 第3章
《プロタゴラス空軍基地》
4月16日 11:34 A.M.
『能力者』という存在がこの世にはいる。
今に始まったことではない。『能力者』はさまざまな名称の呼ばれ方をし、この世界に古くから
存在していたのだ。
『能力者』が社会に及ぼす影響力は計り知れないものがある。しかし同時に彼らは、社会に
は知られないか、もしくは脅威となる存在でもあった。
『能力者』の存在の認識は、『能力者』同士か、ごくごく一部の人間に知られるだけに留まり、
長年の時、存在し続けた。
『能力者』は、時として、人間を超越した存在、とさえ言われていた。彼らは、何かしらの『能
力』を持っていた。
その『能力』は、古くから、『非能力者』と言われる一般人からは、超能力、サイキックとして称
え上げられ、同時に忌み嫌われても来たものだ。
『能力者』と言われる存在の定義は、『能力』を使えるという言葉を示していた。更にこの『能
力』でも、非常に高度な水準のものを使える場合、これを『高能力者』と呼ばれる場合もあっ た。
『能力者』は無から火をも生み出せるし、時には物質、空間さえ制御し、銃火器を持った人間
をも相手にした戦闘も可能になるという。
この、超人類を、軍組織やテロリストが見逃さないはずは無かった。
『能力者』であるか否かは、先天的なものがほとんどで、後発的に『能力』が発現する場合で
も15歳までが限界だった。『能力者』は、古くからその存在を知られていたものの、軍や戦争 で使うには、数が少なすぎたし、戦闘用の『能力者』、『高能力者』ともなればその人数はぐっと 減る。
しかし、世界的規模の最後の大戦争、3次大戦の直前に行なわれたという、ある計画が軍や
テロリスト達を、『能力者』獲得へと突き動かしていた。
それが、『能力者』を意図的に生み出すという実験だったのだ。
ゴードン将軍は、端から、セリアを連れ戻すのは無理だと決め付けていたが、ヘリに乗って彼
女が《プロタゴラス空軍基地》に現れたときは、彼女の存在に驚かされた。
あれだけリーのような役人を毛嫌いし、また彼らとの摩擦によって、半ば軍を追放されていた
ような女が戻ってくる。ゴードンにとっては信じられないような話だったが、現にセリアは目の前 に現れているのだ。
だが、セリアはまだ完全に説き伏せられたわけではなかったようだ。
「潜入捜査の作戦内容を見せて。もし、万全に整えられていなかったら、私は乗ってきたヘリに
そのまま乗せてもらって帰る事にするわ。そうそう、あとジョニーの組織の内の誰かが『能力 者』だって言う確実な証拠も見せてよ」
セリアは要求を次々とぶつけてくる。だがリーは、そのような要求はすぐに満足させることが
できるようだった。
「ああ、秘密作戦室でな」
セリアは、ラフなシャツとパンツ姿だった。手荷物は何も持っていないし、化粧だってしていな
い。そうであっても、彼女が36歳の女だと言っても誰も信じられないだろう。
どうやって、軍という粗野な世界で、そんな美貌を保ってきたのかは分からない。それも情報
技術官や通信兵などではない。実戦部隊の兵士だったのだ。
長い金髪、白い肌。少し冷たい眼光こそ持っているが、魅力的な目など、むしろファッションモ
デルの方が似合うのではないのか、と誰しもが思う。
しかしセリアは正にバラであり、鋭く長いトゲを無数に持っていた。美しいと思えるのは外見だ
け、という人間もいる。
今、そんな彼女の一面はリーに対して向けられていた。
一方、セリアと並んで歩くリーは、ブルーのスーツに身を包み、その濃い茶色の髪と、堀の深
い顔が、まるでマシーンのようである。確かに役人にも見えなくは無いが、そこには、更に地位 を高望みをするような野心も感じられなかったし、目先の結果だけに捕らわれない、幅広い視 野を持っているようだった。
リーもセリアも、軍人としてはかなり浮いた存在だ。彼らの外見だけではなく、その行動、そし
て態度、全てにそれが滲み出している。
「君が潜入捜査をしたとき、ジョニー達が借りていた倉庫には、無数の武器があるはずだっ
た。そうだな?」
極秘作戦を行なう際の会議室に古い作戦報告書を持ち込んだリーとセリアは、ある任務につ
いての情報を交わしていた。
秘密作戦室にいるのはリーとセリア、さらにゴードン将軍、そしてまだ若い風貌をした、赤褐
色肌の軍人だった。彼は軍人としての格好をしておらず、ダークスーツを着ている。それが《タ レス公国軍》陸軍の捜査官の正装だった。彼はゴードン将軍の部下で、名前はデールズ・マク ルエム。リーと共にこの作戦に参加する事が決まっていた。
そんな数人程度の環境の中、セリアが話し出す。
「ええ。ヤング・ソルジャーは、海外から《プロタゴラス港》にやって来るといわれている武器を、
国内の組織に取引を通じて横流ししていたって言うのよ。その際に、莫大な利益を生むように してね。
ああ、そうそう、国内の武器を海外へと横流しするという逆の方法も取っていたわ。つまり奴
らは、不法に武器の貿易をしていたの」
長い金髪をかき上げながら、セリアが呟いた。どうも退屈そうな様子である。
「君の潜入捜査中では、港内にある武器を発見できなかったし、取引にも参加できなかったの
だな?」
リーがセリアに尋ねる。すると彼女はあさっての方に目線をやった。
「さあ、どうかしらね?」
するとゴードン将軍が間に割り入る。
「私が、止めさせたのだ。セリアは強行にジョニー達の取引の現場を抑えようとした。だがそれ
は時期尚早だったし、肝心な事が分からなければ、ただの武器の違法取引にしか過ぎない。 その肝心なこととは」
「ジョニーの組織の誰か、もしくはジョニー自身が、『能力者』であるという事よ。そうすれば、
『能力者』として、わたし達はあいつらを拘留することが出来る」
と、セリア。
「その通り。だがセリアはその命令をも無視し、強行に現場を押さえようとした。だから、わざと
逮捕させたように見せかけ、身柄を回収した」
ゴードンがそう言っても、セリアは表情を変えることはなかった。
「セリアが我々軍の人間であるという事はバレてはいない。しかし、ジョニー達の逮捕には至ら
なかったのだ」
「それで、新たな証拠って、何よ?」
セリアがゴードンの言葉を遮るかのように言ってきたので、リーはすでに動かしていた、会議
室内のスライドを動かし、別の写真を表示させた。
どこかのテロリストらしき人間のアジトらしき場所だった。銃撃戦でもあったのか、内部は荒
れたばかりの様子そのものである。それが検挙直後に取られた写真であるという事は明白だ った。
これは『タレス公国』ではない。捕らえられているテロリストらしき者達の風貌からして、『ジュ
ール連邦』、それも特に旧植民地と言われる、『ジュール連邦』奥地の地方の者達の風貌だ。
「先日『ジュール連邦』が拘束した、テロリストのアジトでこんなものが見つかった。全て純正の
爆弾だったり、銃火器などの武器だったりする。しかし…¥」
リーが画面に表示させた画像では、マシンガンのようなものが、コンクリートの中に埋もれて
いた。それも、ただコンクリートをくりぬいて埋め込んだのではない。まるで水の中に入れて、そ れを凍らせたかのようだった。
他にも似たようにコンクリートに埋め込んだかのような、手榴弾。ロケット砲などが表示され
る。
「これは、ただコンクリートに埋め込んだわけ、ではないな?」
ゴードンは、そのコンクリートの破片を凝視して言った。まるで、見たこともないものを見て言
ったかのような顔をしながら。
「ええ、これはそんな生易しい方法でやっているのではない。瞬間的にコンクリートを固めること
ができなければ不可能だと。しかも専門家に言わせれば、このコンクリートは、セメントから固 められたものではなく、コンクリートを溶かし、それをまた固めて、中に武器を隠しこんだのだそ うだ」
リーは説明するが、セリアはその内容に飽きてきてしまったようだ。
「それが一体、『能力者』の存在を示す証拠になるわけ? ただ、調べ方が甘かったからじゃあ
ないの?」
「だが、このテロリストに言わせれば、ジョニー・ウォーデンという男と、この武器弾薬について
取引をした、と、言っていた。それが証拠だ」
「あらあら、じゃあ、さっさとジョニーを捕らえなさいよ。国外のテロリストに武器弾薬を密売する
のは、立派な犯罪だわ」
と、セリア。
「だが、そうもいかん。私たちの部隊が動けるのは、その組織が先日の爆弾テロに関わってい
る場合であり、また相手が『能力者』である場合のみだ」
リーは無機質な声で、ゴードンとセリアに言って見せた。
「だがリーよ。疑わしい組織は全て調査せよとの命令だ。もしお前が今我々に示した情報が、
昨日暗殺された男から渡された情報ならば、このジョニー・ウォーデンと言われる男は、捜査を する価値があると思うが?」
と、ゴードンがリーとセリアの間に割り入った。
「そう。だから君を呼んだ。セリア。もし、ジョニー達の組織に『能力者』がいるのならば、通常の
強行な作戦は無意味なものとなる。一般兵ではとても、『能力者』には太刀打ちできないから な。つまり、潜入捜査が不可欠だ」
「ふん。ジョニー達の組織から、爆弾テロへと繋がる確たる証拠があるのならば、私も動いてあ
げても良いわよ。
でも、何の目的も見せないで、ただ闇雲に潜入捜査をするのは、気が引けるわ」
セリアが言う。彼女はずっと椅子の上で腕組をしたままだった。
「セリア」
リーが一言、彼女を呼んだ。
「何よ。下手な取引には、応じたくないわ」
「聞いたよ。君には生き別れになった娘が、いるんだってな?」
突然、セリアの不敵な表情に翳りがさした。だが、リーは構わず話を続けた。
「君は、探偵まで雇って、自分の娘の居所を探そうとしている。しかし18年前の話だ。君はも
う、娘を探すことはできない、と諦めかけている」
リーは手にした書類を整えながら、セリアにそう言うのだった。
「だから、どうしたって、いうのよ、あんた! そんな昔の話、今頃持ち出して、何を言いたいの
よ!」
リーは、机の上で手にした書類の角を整えながら、セリアに近付いていく。
「私が以前勤めていた、国防省には、犯罪捜査のための、国でいや、世界でも最大級の身元
追跡センターがある。本来ならば、そのセンターの追跡シミュレーション装置は、捜査関係者 が政府の許可を得て利用できるものだが、セリア。君にそれを使わせてやっても良い」
「最初から、そうやって、私を餌で釣るつもりだったのね、あんた。娘のことまで調べて!」
そう言うと、セリアは荒々しくリーの持つ書類を叩き落した。だが、
「いいわ。やってあげる! ただ、捜査が成功したにしろ、失敗したにしろ、その追跡センター
は利用させてもらうわよ。それが条件。私がこの潜入捜査に参加させてもらうという時点で、取 引成立。いい?」
リーはセリアに凄まれても、少しもその表情を変えることはしなかったが、
「いいだろう。それで取引成立だ」
と、リーが言うと、セリアは鼻を鳴らした。そして、少し軽蔑の目でリーを見るのだった。
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