|
レッド・メモリアル Episode04 第1章
『ジュール連邦』《ボルベルブイリ》
4月8日 11:54 A.M
政府の建物から脱出することが出来たアリエル。彼女は、没収されていた自分のバイクを見
つけ出し、大急ぎでそのエンジンをふかすと、バイクを発進させた。
案の定、テロリストの襲撃によって、国家安全保安局内の外側の警備は緩くなっており、アリ
エルは簡単に脱出することができてしまった。
ヘルメットを被り、中にある衛星システムを作動させ、自分が今どこにいるのかをチェックす
る。《ボルベルブイリ》市内にいるという事は分かっていたけれども、ここが具体的にどこにある のかは分からない。
自分の現在位置が分からなければ、逃げようもなかった。
システムはすぐにアリエルに現在位置を教えてくれた。ここは、《ボルベルブイリ》市内でも北
部に当たる。政府の建物が多い場所だから、アリエルが普段あまり寄り付かない場所だ。で も、逃げるルートならば分かる。
逃げてどこへと向うべきなのか、アリエルには当てがあった。
こうなってしまったら、もう逃げるあてなんて一つしかない。あの人に頼るしか方法は無いん
だ。
《ボルベルブイリ》市内をアリエルはバイクで疾走し、何もかもから全速力で逃げ出そうとして
いた。しかしながらあいつらは、すぐにアリエルに追いついてきていたのだ。
背後から迫る、黒塗りのトラック。トラックとは言っても、その趣はまるで戦車のようなデザイ
ン。それが迫ってきていた。
アリエルは更にバイクを加速させる。ヘルメット内に現れている表示に、後続の車の車間距
離が表示されていて、それは、アリエルがバイクを加速させても、だんだんと距離を縮めてきて いた。
このまま逃げるしかない。ストロフとかいう男のような、政府機関に捕えられてしまっても何を
されるかわからないし、突然襲撃してきたテロリスト達などに捕まろうというのならばもっての他 だ。
今は、ただ逃げるしかない。アリエルはその他の事を考える事をしないようにしながら、バイ
クを更に加速させた。
《ボルベルブイリ》の街が、いつもよりも現実味の薄い姿で流れていく。まるで今ここにいる自
分が、別の世界に迷い込んできてしまったかのように。いつも見慣れた街並みが、とても不鮮 明な姿で見えるのだ。
トラックは背後から迫ってきたが、アリエルはバイクだ。市内の中央通りの車の間を、素早く
縫うようにしてアリエルはバイクを走らせた。
途中、何度も、車に接触しそうになって、ヘルメット内の表示が警告を告げる。だが、バイクで
しか入れないような場所を走っていけば、あのトラックには追いつかれない。
そう思っていた。
しかしトラックは、中央通りの反対車線を走り、アリエルへと迫ってきているのだ。
彼女にとっては信じられなかった。反対車線など走っていたら、いつ他の車に正面衝突する
か分かりやしないというのに。
逆に縫うように車の間を走っているアリエルの方が遅れている。
この戦車のような姿をしているトラックは、テロリスト達が乗っているトラックらしかった。何度
か遭遇している政府組織の車とは姿が明らかに違う。
それも二台。アリエルを挟み撃ちにするかのようにして迫ってきていた。
このまま、反対車線を走る車がアリエルよりも前に出て、背後から来る車が、アリエルの後ろ
に付いてくるに違いない。
そう判断したアリエルは、ヘルメット内の画面上に表示されている地図をチェックし、別の道
に入ることが出来る、交差点をチェックした。
前方に出ようとしているトラックの荷台から、誰かが姿を見せる。それは、アリエルもよく見覚
えのある人物だった。
赤毛の髪をなびかせ、いつもよりも幾分とワイルドな衣服を着ている。ショットガンを握ったま
ま、その衣服を着ている姿を見ると、まるで戦闘服を身に付けているような姿をしている。
それはシャーリだった。
彼女を乗せたトラックは、反対車線から、アリエルのいる車に乗り込んできて、彼女の前に立
ちはだかろうとしていた。
「シャーリ、何で、どうしてよ?」
アリエルは、バイクのハンドルを握り締めながら、思わず呟いていた。
何故、幼馴染の彼女が、こんな風にテロリストと一緒に行動をしているのか、突然現れた彼
女の姿を、アリエルには理解することが出来なかった。
ショットガンを構え、その冷たい銃口をアリエルに向けている姿など、とても想像できない。
周りの風景、今、自分が置かれている立場と一緒に、前方にいるシャーリでさえ、アリエルに
とっては現実味が無い姿として映っていた。
シャーリは、ショットガンをアリエルの方向ではなく、自分達の走行しているトラックの、アスフ
ァルトの地面へと向けて発砲していた。
何故、地面へと向けて発射したのかは分からない。だが、シャーリ達の背後を走行していた
車が、突然、破裂音と共に急停車した。
一台の車が車体のバランスを大きく崩し、スピンしながらもう一台の車に激突する。そしてま
るでアリエルの行く手を阻むかのようにして停車した。
パンクしたのか。だけれども、何故突然?アリエルは走行していた車によってその行く手を阻
まれてしまっていた。
背後からも、別のテロリストの車が迫って来ている。アリエルはバイクを減速させ、このどうし
ようもない状況に次の策を考えようとした。直後、目の前に、一つの建物が飛び込んできた。
ヘルメット内に表示されている地図をチェックする。アリエルは即座に判断した。きっとできる
はずだ。
アリエルは、バイクを前方ではなく、大通り沿いにあった、建物の中へと突入させていった。
正面入り口のガラス扉を突き破るようにして中へと入っていく。細かなガラスの破片を浴びつ
つ、アリエルは建物の中へとバイクを走らせた。
建物はデパートだった。ただ、国自体の大きな不況もあって、デパート内は閑散としている。
店員でさえ数人しかいない店舗内だったが、今のアリエルにとっては逆に好都合だったのだ。
アリエルは正面玄関から突入していき、あっと言う間に店内を通り抜けていた。バイクは瞬時
に加速して、彼女の体を、背後へと押し飛ばそうとさえするかのような勢いだが、アリエルはハ ンドルを握り、前を見据えた。
デパートの店内のショーケースの間を縫うように走ったアリエルは、反対側の出口から外へと
飛び出していこうとする。反対側の出口も、ガラス戸でできていたから、加速したバイクで反対 側に飛び出すのは造作ない。
さっきの大通りとは幾分か狭い通りへと飛び出してきた。突き破ったガラスの破片が、道路
へと散乱して、アリエルはそのまま、車道へとバイクを走らせようとする。
ヘルメット内のナビによれば、さっきの大通りからは少し離れている。このまま、街の郊外へ
と、この通りを抜けていけば、脱出することが出来そうだった。
しかし、アリエルは、背後から迫って来る気配にはっとした。バイクのサイドミラーには、今度
は黒塗りの車が映っているではないか。
テロリスト達ではない。あの、ストロフとか言う男の仲間達。政府の関係者が、アリエルの背
後へと車を付けてきていたのだ。
彼らに助けを求めれば、テロリスト達にも襲われない。そのような保証は無かった。現にあれ
だけ厳重な警備体制の建物へと、テロリスト達は襲撃を仕掛けてきたのだ。アリエルを保護し てもらうことなどできない。
そんな判断をアリエルは既にしていた。バイクの速度を緩めるつもりは無かった。一直線に、
郊外へと向う道をバイクで疾走するアリエル。
もう、何もかもから逃げ出してしまいたかった。
だが、追い討ちをかけるかのように、テロリスト達を乗せたトラックが、正面の交差点から顔
を覗かせる。
素早くアリエルはバイクを操り、テロリスト達を乗せたトラックを交わすかのようにしてバイクを
走らせる。
彼らのトラックをも追い抜いてしまった。しかし今度は2台のトラックに背後から追いかけられ
る形になってしまっていた。
もうどうしようも無い。このまま、バイクを走らせ、今では三つ巴になってしまっている、自分自
身への追跡撃から脱出したい。
テロリスト達は、黒塗りの車と並走する形でアリエルへと接近してくる。しかし、突然、黒塗り
の車の窓が開き、そこから、銃の姿が見えた。
黒塗りの車に乗った者達が、テロリストの車に向けて、銃を発砲する。銃声は、すぽんと抜け
てしまうような音しか聞えない。
アリエルが映画とかで良く見る、スパイなんかが使っている銃の消音装置だ。
テロリストも負けじと、マシンガンを走行している黒塗りの車へと撃ち込んだ。こちらは、激し
い銃声。エンジン音などかき消されてしまうほどのもの。
車上でテロリストと、黒塗りの車に乗っている政府の者達が、激しい銃撃戦を展開している。
彼らが争っている間に、この場から脱出してしまえば、そうアリエルは思った。
突然、テロリストの乗ったトラックから、異様な形状の何かが出現した。アリエルにはそれが、
何かの兵器にしか見えない。
何だっけ、あれは、一体何なんだっけ?
彼女がそう思考するのよりも早く、テロリスト達は、ロケットランチャーを発射した。政府の車
も、ロケットランチャーをまともに食らっては、その車体を、10メートル近くも空中へと舞い上げ られ、炎に包まれざるを得なかった。テロリスト達のトラックも、ほぼ真横の車に撃ちこまれた ロケットランチャーの爆発の影響で横転しそうになったが、すぐに体制を立て直す。
アリエルも、10メートルほど後方で起こったばかりの爆発に、体を吹き飛ばされそうになった
ものの、何とか持ちこたえた。街の中であんなことまでするなんて、こんな事って絶対にあり得 ない。逃げ出したい。
バイクはすでに最大出力だった。時速100km近いスピードで通りを疾走している。
背後から迫るトラックは、そんなアリエルを逃さまいと、しっかりと後ろについている。
心が、頭が、まるで目の前で今起こっていることは、現実ではないんじゃあないかと思い始め
ている。
だが、そんなアリエルを現実に呼び戻そうかと言うがごとく、目の前の、道路と、鉄道線路の
交差点の踏切が、遮断機を下ろそうとしていた。
抜けられる道は無い。このまま列車が繰るよりも前に突っ切るしかないのだろうか。だが、遮
断機はすでに降り切っていて、列車も姿を現そうとしていた。
アリエルが全速力で突っ込んでいけば、列車より前に、踏み切りの向こう側に出る事ができ
るかもしれない。そうすれば、テロリスト達から逃れることが出来るはず。
だがそれも五分五分だった。もしかしたら、列車に轢かれる可能性もある。
だが、踏切まで横道は無かったし、列車に衝突しないためには、バイクを停車させなければ
ならなかった。
テロリスト達を乗せたトラックはアリエルの背後につけてきている。彼らは、アリエルが、この
まま列車に向って突っ込んでいくと判断しているのだろうか、スピードを緩める様子が全く無 い。
アリエルはバイクを加速させた。どうやらもうやるしかない。他に道が無かった。
アリエルは更にバイクを加速させ、踏み切りに向って突っ込んでいく。遮断機を正面から突き
飛ばした。
丁度その時、列車が、踏切を通過する。バイク1台ほどの大きさもあろうかという車輪が迫っ
た。列車を牽引する機関車の巨大な車輪が目の前で回転している。
だが、アリエルはその巨大な車輪にバイクが巻き込まれるか、という寸前に、全力でバイクを
列車と並走する形に方向転換させようとした。
車体を大きく倒し、時速100kmに近いスピードで、ほぼ直角にバイクを曲がらせる。無謀に
も等しい行為だった。
だがアリエルは、バイクを垂直に曲がらせる瞬間、何もかもの動きが、スローモーションのよ
うに見えていた。
眼前に迫る、機関車の巨大な車輪の動き、ピストンの動きさえもが、スローに見えていたし、
バイクの動きもはっきりと見えていた。テロリスト達のトラックが、減速することなく迫ってくるの も。
その全てがスローモーションで動いている中で、アリエルは自分がどのように行動したらよい
のか、はっきりと理解できた。
バイクがほぼ横転したまま、機関車の巨大な車輪に巻き込まれようかと言う瞬間に、アリエ
ルは自分の腕から、円弧型に歪曲した、刃を出現させていた。
彼女の体の一部であり、彼女自身の体を鋼鉄のように硬質化させた物質は、バイクとアリエ
ルの体を、新たに支える車輪となって、踏み切り内での垂直ターンをサポートした。
バイクが機関車の車輪に飲み込まれる寸前、アリエルが自分の腕から出現させた、新たな
車輪は火花を散らせ、その場で直角のターンを行なっていた。
アリエルが、自分の腕から、車輪のような形状の物質を出すことが出来なかったら、バイク
は、機関車の車輪に飲み込まれて言ってしまったことだろう。
全てがアリエルにとってスローモーションに見えたのは、その一瞬の間だけだった。その場を
直角にターンしたアリエルは、そのまま列車と並走する形になり、列車の進行方向へと共に走 っていこうとする。
直後、テロリスト達を乗せたトラックも、アリエルと同じように直角のターンをしようとしたが、ト
ラックが時速100km以上の速度で直角に曲がれるはずも無く、貨物列車のコンテナの中へと 突っ込んでいった。
巨大な歯車に押し潰されるかのように、トラックはアリエルの背後で、押し潰れていく。その有
様を、アリエルは振り返る事もできない。
ただ、全力でバイクを、線路が延びている方向へと加速させていく事しかできなかった。
シャーリこと、シャーリ・ジェーホフも、彼女の配下であるテロリスト達と共に、アリエルを追跡
していた。
しかし彼女らのトラックを追跡して来た政府の部隊によって、大通り内で包囲されてしまい、ア
リエル達のバイクに追いつくことができないでいたのだ。
軍部隊と、シャーリ達の間で激しい銃撃戦が行なわれていた。相手は完全武装した国の部
隊だったから、十数人足らずのテロリスト達の装備では叶うはずも無く、あっという間に追い詰 められていた。
ロケットランチャーで、シャーリの部下が応戦したため、《ボルベルブイリ》の街中の一角はま
るで戦場のような有様だった。トラックが火を吹き、アスファルトの地面からは炎が上がってい る。
やられてしまった部下達の姿をシャーリは見ていた。
だが、共に活動をして来た仲間の倒れた姿を見ても、シャーリの表情はあまりに冷たかっ
た。
何でもない、ただの物を見ているかのような目でしかない。彼女の、片方だけ開かれた目
は、あまりに冷やかに周囲を見つめていた。
だからシャーリにとっては、目の前に銃を構えてやって来る『ジュール連邦軍』の兵士を見て
も、それを物としてしか見ることができなかった。
ただ、銃を構えて自分に迫って来る物。
シャーリは例え武器を向けられていても、それを怖れもしなかった。おおよそ10人の軍の部
隊の隊員達が、自分を包囲し銃を構えている。
相手の連中は、自分がまだ若い女にしか過ぎず、テロリストと共に行動している事など信じら
れないとでも思っているのだろうか?
シャーリはショットガンを片手にしたまま、すでに撃ち倒されているテロリストたちの体の合間
を縫って歩き始めた。
軍の兵士達が、シャーリに向って銃を発砲し始めた。マシンガンから放たれた銃弾は、シャ
ーリの体に向って一斉に飛び込んでくる。
だが彼女は動じなかった。何故なら、彼女は知っていたからだ。自分が他の人間とは違う。
自分が、銃など怖れるにたらない人間であるという事を知っているのだ。
兵士達は、何も言わずに、シャーリに向って銃を撃ち込んできている。しかし、彼女の体は、
銃弾を受けても、全く立ち止まるは無かった。むしろ、兵士達の方へとどんどん接近していく。
シャーリの体に命中した銃弾は、火花を散らしながら、いずこかへと飛び去ってしまう。彼女
の体に命中し、その動きを止められ地面へと落下した銃弾もあった。
シャーリは、いくらマシンガンの銃弾を受けても、傷一つ付かない体で兵士達の方へと迫る。
そして、彼女はショットガンを一人の兵士へと向け、何も躊躇わずにその散弾を撃ち込んだ。
シャワーのように降り注いでくるマシンガンの銃弾の中で、シャーリは、ショットガンを抜き放
つ。
一人の兵士が吹っ飛ぶように撃ち倒されると、シャーリはすぐに次の散弾をリロードして、今
度は別の兵士にその銃口を向けた。
激しいマシンガンの銃声の中で、爆発音のように轟く、シャーリのショットガンだけが、確実に
相手を打ち倒していた。
シャーリが、自分を包囲した兵士達を全て倒してしまうまで、ものの数分もかからなかった。
兵士達の周りには無数の薬莢が散乱していて、その大半がシャーリの体に命中していた。し
かし、シャーリ自身は全く傷ついていなかったし、彼女の冷たい輝きを持つ青い瞳もそのまま だった。
無数の銃弾をその体に受けても、シャーリは全く傷ついていなかったのだ。
シャーリは服の中から携帯電話を取り出した。だが携帯電話は、今の銃撃によって大破して
おり、シャーリがポケットからそれを取り出せば、地面へと残骸になって落ちていってしまった。
どこかから、救急車や消防車のサイレンが聞えてきている。街にはどんどん騒ぎが広がって
いるようだったが、シャーリは全く動じることなく、倒された、自分の仲間のテロリストの服の中 から、携帯電話を拝借した。
そして、ある番号をプッシュする。
(シャーリよ…。確保はできたのか…?)
相手はこの番号を知っているのは、シャーリしかいないという事を知っている。そのための専
用回線なのだ。
「いえ、申し訳ありませんが、奴らの動きが、予想以上に早く取り逃してしまいました。申し訳ご
ざいません」
シャーリは、無数の銃弾には動じなかったが、この男に電話するときだけは、まるで畏怖を感
じているかのように、厳かな態度になった。
(まあ、良い。私がこうなってしまっている以上、アリエルを追う事ができるのはお前しかいない
のだからな。
アリエルは捕えなければならない。彼女を捕える事は、我らの計画の第一段階になる)
「はい、分かっております。お父様」
シャーリは静かに、だがはっきりとそう答えた。
(手段は選んでいられまい。だから、私の有能な部下を使って良いぞ…。お前の指示一つで動
けるようにしてある。奴らよりも先にアリエルを追うには、有能な部下が必要だ。使え)
「はい。承知しました」
(愛しておるぞ、我が娘よ…)
「私も愛しております。お父様」
シャーリはそう答えると、電話機の通話ボタンをオフにした。緊張しきったシャーリの表情と
手。電話機を持つ手が強張っている。
そんなシャーリの背後から、突然トラックの扉を開き、誰かがその姿を現した。
シャーリは背後を振り向く。すると、そこには一人の少女が立っていた。長い金髪を、まるで
人形のようなデザインに垂らし、古風な衣装を着ている少女だ。
その姿だけ見れば、まるで『ジュール連邦』の文化工芸の一つ、ジュール風人形が、現実に
立って歩いているのかと思ってしまうだろう。
少女はシャーリの方を観ると、にっこりと微笑んだ。
「ねえ、シャーリ。お父様、何て言っていたの?」
トラックから現れた人形のような姿の少女は、銃撃戦が起こったばかりの街中にはあまりに
不釣合いだった。彼女がそこにいるというだけで、現実味さえ薄れてくる。
シャーリはそんな少女の方を振り向くと、表情を変えずに言った。
「あいつを追えって、いつもの事よ。レーシー。あんたにも協力してもらうし、仲間も増やすわ」
とシャーリは言って、レーシーを連れこの場からいずこかへと向おうとしたが、
「ねえ!こんどはあたしにいい所を持っていかせてよ!あんなに獲物がいたのに、全部シャー
リが持っていっちゃって!」
と、まるで子供が不平を漏らすかのように声を上げる、レーシーという少女。
戦場さながらの場に、多くの死んだ人間が倒れているのに、まるで動じることも無い。まるで
遊びにここまで来ているかのようだった。
トラックのドライバーの体を外へと引きずり出すと、シャーリは運転席についた。銃撃戦で損
傷したトラックだが、まだ走行できるらしく、エンジンはかかったままだ。
シャーリが運転席に座ると、レーシーは助手席に着いた。
「今度は、これを使わせてよ、ね!ね!」
助手席に乗り込んだレーシーが、荷台に積んである大型のロケットランチャーを指差して言っ
た。
まるで子供が、新しいおもちゃを見つけたかのような言葉だった。
「全く。子供の無邪気さも、あなたほどにまでなると恐ろしくなってくるわよ」
ぼそりと呟いたシャーリ。彼女は畏怖をするかのような目でレーシーに目をやった。
「うん?何か言ったの?」
とレーシーが言ったが、シャーリは、もうこれ以上相手はしていられないといった様子で、トラ
ックを発進させた。
|