レッド・メモリアル Episode22 第1章



γ0080年5月13日
12:06 A.M.
ジュール連邦北海域上空

 リー達、ベロボグ・チェルノ襲撃部隊を乗せたヘリは、《ボルベルブイリ》郊外にあった空軍基
地を離れ、すでに北海域と呼ばれるところまで到達してきていた。この地は、極寒の海であり、
冬の季節には氷河さえも見ることができる、閉ざされた土地である。
 ベロボグはこの地に、エレメント・ポイントなる基地を作り、そこに人材を集めていると言うの
だ。一体彼が何を狙っているのか。リーはタカフミから聞かされ、それを知っていた。
 この襲撃部隊が狙っているのは、ベロボグ・チェルノとその組織の者達の身柄の確保。それ
はもちろんの事だったが、それだけではないだろう。
 恐らく、カリスト大統領、もしくは大統領の管轄下にも無い、情報組織からの闇の命令で、『レ
ッド・メモリアル』という技術を確保しようとしている。それがこの襲撃部隊の目的だ。
 もし、ベロボグ・チェルノの組織を壊滅させたいのであったら、一気に空爆の攻撃を仕掛けれ
ばそれでいい。だが、わざわざヘリによって襲撃部隊を送り込ませる事には理由がある。
 そして、『レッド・メモリアル』の情報について知っているリーを連れてここまで来ているのも、も
ちろんその装置を確保する事に他ならない。
 ヘリの座席に座っている、一体何人がその命令を知っているのだろうか。中には知らされて
いない軍の隊員もいるだろう。
 あの装置の技術があれば、この世の中を変える事だってできる。だからベロボグはあの『レ
ッド・メモリアル』の開発をしていたのだ。だが、それは同時に危険なものともなりうる。リーは
『レッド・メモリアル』を破壊しようとしていた。
「ベロボグ達は、我々が近づいていく事を感づくだろう。奴らだって、レーダーくらいのものは完
備しているはずだ。このままヘリで乗り込んで行って大丈夫なのか?」
 リーはそのように、この襲撃部隊の隊長であるハワード少佐に向かって尋ねるのだった。
 すると彼は答えてくる。
「我々の目的は、ベロボグ・チェルノの確保にある。もし相手が抵抗を見せるのであったら、ス
テルス戦闘機が援護に回り、援撃を行う。問題は無い」
 そのようにハワードは言ってきた。
 こうやって宵闇の海上をヘリで飛んでいる最中にも、このヘリの動きに合わせるかのようにし
て、戦闘機が飛んできているのだ。その姿はリー達には見えなかったが、司令部はそれを把
握している。
 そして最後には、そのステルス戦闘機による空爆によって、『エレメント・ポイント』もろとも破
壊してしまうつもりなのか。
 いや、膨大なエネルギーを引き出せると、データにあった、あの『エレメント・ポイント』の施設
を、そう簡単に破壊する事など、彼らがするはずがないだろう。
 となると、わざわざヘリで乗り込んでいくという事は、『WNUA』が狙っている事は、ベロボグ
から『エレメント・ポイント』という施設ごと奪ってしまうという事に他ならない。
 そうなると、
 リーはその時、無線が入ったのを知って、すぐにイヤホンに耳をすませた。
(リー。順調か?)
 それはタカフミの声だった。
「ああ、今のところはな」
 そのようにリーは答える。だが、いつ何が起こっても不思議ではないような状況であることも
確かだった。
(ところで、アリエルの事なんだが…)
 タカフミの関心事は、作戦の事よりもそちらにあるようだった。そしてそれはリーも同じであ
る。
「見つかったのか?」
 すると言いにくそうにタカフミは言葉を返してくる。
(ああ、《ボルベルブイリ》に配備されたばかりの、無人偵察機を使って行方を追跡したよ。する
と、彼女はバイクに乗って北を目指している。ずっと北だ。だが、《ボルベルブイリ》の外はこの
無人偵察機の監視下じゃあないから北へと向かった事しか分からない)
 アリエルが北へと向かった。あれだけ平和に、共に暮らそうとしていた養母のミッシェルをも、
何もかもを捨てるようにして、どこかへと行ってしまった。
 もちろんアリエルがそこまでして行きたい場所など、もはや一つしかない。
 アリエルは父の元、ベロボグの元へと向かう。何らかの方法を使ってアリエルは、父、ベロボ
グの元へと向かう手段を知った。それは恐らく『レッド・メモリアル』を通じて知った方法だろう。
 養母に、そしてリーにそれを言えば止められると思っていたのだろうか。アリエルはその『レッ
ド・メモリアル』の情報を言ってはこなかった。彼女自身の目的、彼女自身の手段がある。
 リーは、アリエルを止めたかった。ベロボグ・チェルノが目指している事とは、本当にこの世界
を変えることができるものだとでも言うのだろうか。彼は危険なテロリストでしかない。そのよう
な世界に足を踏み入れるなど、危険な事でしかないのだ。
 ヘリに乗っている隊員達は無言で口を閉ざしたままだ。彼らが、ベロボグ・チェルノの本拠地
へと足を踏み入れていった場合、どのような行動を取るのだろうか。ベロボグの確保、そして
『レッド・メモリアル』の確保のためには手段を選ばないのではないか。もし、そんな事をした
ら、その元へと向かったアリエルはどうなってしまう。
 リーは、このヘリに乗っている者達とは全く逆の考えを持っていた。つまり、『レッド・メモリア
ル』という危険な装置は、彼らが手に入れようとするならば破壊する。そして、彼らがアリエルに
手をかけようとするならば、それを守る。そのつもりでいた。
 例えそれが自分の命と引き換えになるような事になろうとも、リーはそう行動するつもりでい
た。
 だからこそ、自分はここにいる。『WNUA軍』はおろか、組織からさえ、彼は反した行動を取
ろうとしている。
Next→
2


トップへ
トップへ
戻る
戻る