レッド・メモリアル Episode22 第8章



「警戒レベル8。非常制御システムに深刻な問題が発生!担当者は即座に制御システムの復
旧に当たれ」
 そのような警報が鳴り響いている中を、リーとハワードの部隊は進んで行く。
 先ほどから続いている地響きのようなものはそのまま続いているし、警報と警告灯が鳴り響
いていた。
「こちらもクリア!」
 部隊の一人がまたしても襲い掛かって来たテロリストを始末し、そのように言う。
「何が起きている?所詮テロリスト無勢なのは分かっているが、幾ら何でも統率が取れていな
さすぎる」
 ハワードはそのように漏らしていた。
 ベロボグ配下のテロリスト達は、次々と一つの部隊によって制圧されていった。
「何か、奴らにとって深刻な出来事が起きているようだな。我々の侵入を簡単に許してしまうほ
ど、奴らにとって、深刻な事が起きているようだ」
 と、リー。銃を片手に迫りくる敵に備えている。
「本部。応答しろ。一体、ベロボグ共になにが起きているんだ?」
 通信機に手を当て、ハワードはそう言っていた。
(『エレメント・ポイント』周辺で地震と津波を観測。それ以上の事は不明)
 通信機からはそのようの答えが返って来ていた。
「『ジュール連邦』の方はどうなっている?」
 そう尋ねたのはリーだった。
(依然として『エレメント・ポイント』へと接近中だぜ。今は、800km離れたところを3機の飛行
物体が航行中。到着までは1時間てところか)
 答えが返ってきたのは、『WNUA軍』本部にいるタカフミの方からだった。
「こちらの制止には応じていないと言うのか?」
 ハワードは言った。
(ええ、強行突破をするつもりのようです)
「さっさとこの地を制圧した方がいいようだ。敵が混乱しているなら、尚更好都合だろう」
 そのようにハワードは行って、部下達を次々とエレベーターへと乗せた。リーもその中に乗り
込むと、作業用のエレベーターは降下を始めた。
「ベロボグは、一体どうしているだろうか?」
 リーは言った。
「奴は生きている。それだけで十分だ」
 ハワードはそう言って、手に持つマシンガンの状態を確かめる。
「始末するのか?」
 リーは尋ねるが、
「あんたも軍人だったのだから、答えは分かっているだろう?」
 そのハワードの言葉が何を意味するのか、リーにはすぐに分かった。
「ベロボグを捕えて尋問すれば、奴と繋がりのある世界中のテロリストの情報を聞き出すことが
できる。だからあんた達は、ベロボグを始末するつもりはない。『レッド・メモリアル』もな」
 リーはハワードの考えている事を見抜くかのようにそう言った。
「それだけ分かっていれば十分だ。だからこれも分かるだろう?あんたは余計な事をするな」
 ハワードがそういった所で、エレベーターは最下点に到着し、部隊員たちはいっせいに銃を
構え、警戒態勢に入った。
「何だ?これはどうした?」
 警戒はしたまま、ハワードが少し驚いたような声を出す。
 工場の中の通路のような、鉄骨が剥き出しの構造は変わらない。
 だが、そこにマシンガンで武装したテロリスト達が倒れていた。銃撃戦の痕跡がある。硝煙の
匂いがたち込めていた。
「すでに、何者かがここに侵入したという事か?」
 リーは倒れているテロリストがすでに死亡している事を確認して言った。
「本部。どうやら、この『エレメント・ポイント』には我々以外の何者かが侵入した模様。何者か
は分かるか?」
 ハワードが通信機に向かって言った。
(現在確認中。ですが、衛星による確認によれば、あなた方以外の侵入者はいません)
「本当か?」
(はい)
 その言葉に、ハワードの部隊員たちは一層警戒心を強めた。何者か、得体のしれない者が
いる。
「気をつけろ。ベロボグ以外にも、何者かがいる。敵と思え」
 ハワードはそう言って部隊の者達を進めた。
 彼らは鉄骨の通路を素早く進んでいく。その道中3つのテロリストの死体があった。交戦があ
った様子もあり、また、奇襲を受けた様子もある。
 その通路は一本道で一つの場所へと通じていた。
「もうすぐ中央制御室だ。ロックがかかっていて、パスワードとカードキーが必要になる」
 リーはそのように言った。
 ハワードの部隊員たちは、中央制御室と『ジュール語』で書かれた扉の前へと次々と集まり、
突入の姿勢へと移った。
 リーはその重々しい扉にロックがかかっていると言ったが、何故か扉は半開きになっている
ではないか。
 ハワードは部下達を指で指示し、突入に備える。
 半開きになっている中央制御室の扉の向こうからは声が聞こえてきていた。『ジュール語』
だ。
 いくつかの言葉が聞こえてきて、その直後、破裂するかのような銃声が響き渡った。銃声だ。
 その銃声を合図に、ハワードは部下達に突入の指示を出した。
 部隊員達は次々と制御室内へと飛び込んで行く、そして銃を構えた。
「銃を捨てろ!」
(銃を捨てるんだ!)
 中に入った者達からそのように声が聞こえてきた。初めは『タレス語』で聞こえたが、すぐに
『ジュール語』へと切り替わる。
 リーも部隊員達に続いてその中へと突入する。そして彼らが銃を向けている方向に彼も銃を
向けた。
 その時、発砲が起こる。ハワードの部隊員達が、ショットガンをこちらに向けてきていた赤毛
の女を撃っていた。
 リーもはっきりと覚えている。ベロボグの娘、シャーリだ。
 シャーリは、マシンガンで撃たれても、少し怯んだ程度で、ショットガンを放って来ていた。そう
だ、彼女には銃火器は通用しない。『能力者』だ。
 制御室内が交戦状態になる。激しい銃撃音が響き渡り、次々と制御室内の計器類や装置が
破壊されていった。
 だが、相手はシャーリ一人。ハワードの部隊員はジェラルミン製のシールドを構えてショットガ
ンの攻撃の中へと入りこんで行った。
 彼は援護されながら、背後にハワードを従え、じっと進んで行く。そして、シャーリがショットガ
ンの弾を切らせた瞬間。ハワードがシールドの背後から飛び出して、シャーリの間近で彼もショ
ットガンを撃ち放った。
 シャーリは近距離でのショットガンの攻撃に耐えられず、そのまま背後へと吹き飛ばされた。
だが、彼女がこれで死んだわけではない。
「制圧!」
「クリア!」
 そのように次々と部隊員達が言って来る。
「こちらハワード。制御室を制圧した。ベロボグ・チェルノは、負傷している模様」
 そう言って、ハワードは車椅子から転げ落ち、床へと倒れているベロボグを見やった。
 肩から胸、顔面に至るまで広がっているのは銃創だろう。かなり出血している。そしてそれ以
前に、彼の肉体は何かに冒されているかのように、崩れかかっていた。
 そしてベロボグのすぐ横には、顔を半分吹き飛ばされた死体があった。
 一体、ここで何が起きたと言うのか。リーはハワードの部隊員達と共に、警戒を怠らないまま
制御室内を見回す。
「敵は一人負傷。身元不明の死体が一つ。そして室内の中央に、ベッドで寝かされている男女
が…、7名。いや、もう一人いる」
 そう言って、ハワードはもう一人、床に倒れている若い男を見下ろした。
「銃を持っているな。人種からして西側の人間だ。ベロボグの部下かどうかは不明…」
 ハワードが倒れている若い男を調べている時だった。床に倒れていたベロボグが、突然、血
を吐きながら目を開いた。
「ベロボグが目覚めている」
 リーはハワードを呼んだ。
「何?」
 ハワードが、若い男の事は部下へと任せ、リーの方へとやって来た。
「おいベロボグ。分かるか?お前の組織はすでに制圧した。これで終わりだ」
 そのようにリーは彼に向かって言った。ベロボグに警戒する必要があるだろうか、この男はど
う見てもすでに瀕死の状態だった。
 ベロボグは喋れるのか、それさえも分からない。だが何度か血を吐き、口を開いた。
「そうか…、お前達は、『レッド・メモリアル』を手に入れにここに来たのだな…?だが、何をしよ
うと無駄だ。あのエネルギー体は我々が制御を…」
 そこでベロボグはせき込み、血を吐いた。
「負け惜しみはよせ、ベロボグ・チェルノ!貴様の野望もこれでおしまいだ」
 そのようにハワードは言うが、
「ならば、『レッド・メモリアル』を取ろうとしてみるがよい」
 ベロボグはそう言った。ハワードの部隊員の隊員の一人は、すでに『レッド・メモリアル』が挿
入されているスロットを見つけていた。
「『レッド・メモリアル』なるデバイスを発見。今、それを確保します」
 その隊員はそう言って『レッド・メモリアル』へと手を伸ばそうとしていた。
 その時、突然、彼は激しい閃光と共に背後へと吹き飛ばされてしまう。電流か何かが走った
ようだった。
「何だ、どうした!」
 ハワード達はそのように言って、銃火器をその方向へと向ける。
 どうやら放電が起こったらしい。しかもかなりの電流だったようだ。隊員は背後へと何メートル
も吹き飛ばされており、死亡したらしい。
「貴様、何をした!」
 そのように言って、ベロボグへとショットガンの銃口を押し込むように突きつけるハワード。
「…、私は何もしていないさ。すでに受け継いだ者が、『レッド・メモリアル』を管理している。そ
れだけだ」
 ベロボグがそのように言う。そんな彼はもはや瀕死だ。
 受け継いだ者。その言葉にリーはすぐに反応した。
「あの、機械と一体化できる娘の事か?」
 リーはベロボグに向かってそう言った。
「流石は組織の者だな、トルーマン君…。すでにこの計画は私の手を離れた。私の息子、娘達
が、全てを引き継ぐ。彼ら以外には『レッド・メモリアル』は扱えん」
 そう、ベロボグはすでに瀕死の体ながら、勝ち誇ったかのような表情をリー達へと向けるのだ
った。
Next Episode
―Ep#.22 『ロスト・エデン Part2』―

トップへ
トップへ
戻る
戻る