レッド・メモリアル あとがき

あとがき
 私の近未来長編小説の二作目である、『レッド・メモリアル』が完結しました。
 物語の位置づけとしては、前の長編小説『虚界の叙事詩』から23年後ということになっていま
すが、しかしながら、物語としては独立しているため、前作を知らない人であっても、問題ありま
せん。

 さて、この小説の土台となっているものは、"静かな戦争"『静戦』ですが、これはもちろん"東
西冷戦"を下地にしています。現実世界の冷戦は、大きな戦争もなく、共産主義側の自壊とも
とれる結末を迎えました。
 しかしながら、その戦争は、世界的危機にも発展し、第三次世界大戦にも発展する可能性が
ありました。
 アメリカとロシアの勢力は非常に大きなものでした。これを、実際に戦争が行われなかったこ
とから、ただの軍事的アピールだけと評する人もいますが、もしここに、革命家が現れたとした
らどうでしょう?
 自分の正義を信じ、陰ながら勢力を上げていき、最終的には、当材料国をも上回る強大な国
家を作ろうとする。
 そんな存在がいたとしたら、それがこの小説では、べロボグ・チェルノという人物でした。

 前置きはそのくらいにしておいて、
 この小説のテーマは、信念の激突にもあります。この小説内で、私利私欲で生きている人物
は、いわば小物でしか登場しません。全てがベロボグ・チェルノが信じる崇高な計画の一部に
組み込まれているに過ぎません。
 リー・トルーマンが属している組織、ベロボグ・チェルノ、更にはカリスト大統領など、表側の
人々も、信念で動いています。
 彼らはそれが正義であり、結局のところながら、その正義が戦争を呼びました。
 この物語が終わっても、戦争は続いていくという設定になっています。
 しかし、信念のぶつかり合いは、非常に激しく、多くの人々を巻き添えにしてしまいます。
 その被害者ともとれる人物が、主人公アリエル・アルンツェンでした。
 彼女は生まれた時から、ベロボグの計画に組み込まれた存在でした。同じく、シャーリ・ジェ
ーホフ、レーシー・チェルノも、その存在自体がベロボグの計画の一部でした。
 ですが例え、その大きな争いのなかにあっても、一個人の平和を奪うことが、果たして正しい
行いなのでしょうか?
 それが、この小説のテーマになりました。

 たった一人の人間、国や、果てや世界から見ても小さな存在でしかない、一人の人間。時に
は道具としてしか使われず、事故などであっという間に消え去ってしまう儚い命。
 しかしながら、戦争であれ、何であれ、そのひとりの人間の平和を奪うことは、誰にもできな
いと思います。
 この小説では、アリエルと、その養母であるミッシェルという、今までは普通に、平和に暮らし
てきていた女子高生、アリエルの平和は、父の計画によって奪われようとしてしまいました。
 とはいえ、父は決してアリエルを無理矢理その計画に参加させることはなく、彼女の選択に
任せます。
 ですが、彼女の脳内にチップを埋め込んだり、『レッド・メモリアル』という装置の担い手にさせ
るなど、やはり彼女は利用されてしまっていました。
 いうなればアリエルは被害者です。
 ですが、私は被害者だからといって、誰かに同情を求めたり、急にやけになったりするヒロイ
ン像を作りたくはありませんでした。
 アリエルは自分が与えられた、その運命ともとれるものと立ち向かっていきます。
 彼女も父の計画を知り、何度も迷い、彼についていこうともしますが、やはり彼女は義母ミッ
シェルとの平和を望むようになります。
 彼女達個人個人の平和は誰にも奪うことができなかったはずです。例えアリエルが、父親の
計画に組み込まれる存在だったとしても、彼女の平和、そして選択を奪うことはできません。
 もちろんそれは創作物の世界だけではなく、現実の世界にも言えることです。
 世界の平和も大切なことですが、一個人の平和も、尊く、また誰にも奪うことはできないので
す。

 さて、この近未来小説ですが、『能力者』という特別な存在を中心にした戦いは、だんだんと
影を潜めていき、より現実的な展開になってきました。
 次回作、三作目『コスモス・システムズ』においても、より現実的な展開をしていきながら、ま
た、人として生きていく上で大切な、新しいテーマを描いていこうと思います。
 もちろんそこには思想のぶつかり合いと、戦いがあります。
 『能力者』の存在も大切ですが、また新しい戦いと舞台を描いていきたいと思います。
 それでは、また。

2012年10月9日



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