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レッド・メモリアル Episode03 第3章
『タレス公国』《プロタゴラス》
『グリーン・カバー』本社ビル
γ0080年4月7日 10:53A.M.
『タレス公国』を代表する、軍需産業の重役の一人、ベンジャミン・オットーは、自分のオフィス
内で、対面している男からあるメモを受け取った。
目の前の男は、ダークスーツに身を包んで、サングラスをかけており、全く近寄りがたい様子
だ。体も特別大柄でもなく、相手はただ一人しかいないと言うのに。
オットーはその男とたった二人でオフィスにいた。
その男は、オットーに一枚のメモを渡す。
オットーに渡されたその紙切れには、『5』という数字以外には何も書かれていなかった。
「5人も、だと?」
オットーは、少し驚き、サングラスの男に聞き返した。
「相手方がそうおっしゃっているのですから、我々は応じるしかありません。相応の金額も払
う、と」
サングラスの男は、静かに言った。無機質な声ではない。しかし形式張った義務的な態度
は、ビジネスマンの交渉術のそれだった。
「5人だぞ。あいつらに払う事などできるのか?」
「一人当たり、この前の、倍の金額を出すと言っていました」
そのサングラスの男の言葉に、オットーは、メモを握る腕を震わせざるを得なかった。
「随分、気前が良いのだな、奴らも。その話、乗ってやると答えておけ。後始末はお前に任せ
る。一切の痕跡も残さないようにな」
「承知しております」
そのサングラスの男の言葉が、オットーの揺らぐ気持ちをさらに後押しした。
オットーは自分自身に言い聞かせた。これは、ビジネスなのだ。金を払われて、我々がその
金額に見合うだけの“商品”を“販売”しているだけに過ぎないのだ。
我々は、ビジネスマンだ。金で動いて何が悪い。どうせ、誰も死んだりしないのだ。得をする
者しか、この取引にはいない。
例え、それが非人道的な行いであったとしても、だ。
「機材の再チェックをして、いざって時に捜査がおじゃんになってしまわないようにね!」
セリアが、きびきびとした様子で、バンの中の技術官に言っていた。
「はい」
その技術官は、『タレス公国軍』の人間だったが、義務的に動き、無駄口を叩かず、ただただ
仕事をこなしていた。
だがセリアとしてみれば、大切な作戦を前にして、無駄な言葉を叩かない仕事のパートナー
の方がやりやすい。
一歩のバックアップのミスが、命取りになる捜査なのだから。余計なものは何も必要ないの
だ。
「リー?そっちは、ちゃんと繋がっている?」
セリアがヘッドセットのマイクに向って話した。ヘッドセットと言っても、耳に付けるイヤホンの
大型のもので、マイクは少しイヤホンから口側に突き出している突起の部分でしかない。
(ああ、問題ない。それより心配なのは君の方だ。セリア)
耳にしたイヤホンの中から、リーの声が聞えて来る。彼の声ははっきりと聞えており、一切の
雑音も紛れては来ない。
「私が心配?一体どうしてよ?」
とセリアは言いつつ、バンの中のベンチに腰掛けた。彼女の目の前のモニターには、リーと
共に潜入する予定のデールズが映っている。
それは、リーがたった今かけている眼鏡から撮影されているものだった。
リーとデールズは、外の通りにいる。《プロタゴラス》市内でも高層ビルが立ち並ぶ、オフィス
街に二人の軍人。さらにはバックアップをするため、部隊も配置されている。
部隊は、目立たないバンの中に控えており、いつでも突入できる構えが出来ていた。
リーか、セリアか、デールズの合図があれば、このオフィス街も、あっという間に戦場のような
様相と化すだろう。
「何が、心配か?だと?セリア。君は、じっとしてはいられないタイプだろう? 大人しくそこでバ
ックアップをやっていられるのか?という事だ」
リーは皮肉るような態度でセリアに言った。オフィス街内のベンチで、デールズと共にスーツ
ケースを開き、捜査の準備に余念が無いリーだが、同時に周囲へと警戒の目を走らせる。
リーの目線は、彼がしている眼鏡の極細カメラによって、セリア達の乗っているバンへと映像
を送る。だからセリア達もリーの視点で映像を見ることができた。
(大丈夫よ。あなた達がヘマでもやらなければ、の話だけれどもね。一日中ロッカーに入ってい
るような訓練だって受けた事があるわたしに、良く言うわね?)
そのセリアの言葉に鼻を鳴らし、リーはスーツケースを閉じた。
「例の、国防省のデータベースで、君の娘を捜索するという約束だが、この作戦が終わってか
らで良いか?いつでも使わせてやる事はできるが、今はちょっとな」
スーツケースを閉じたリーは、オフィス街のベンチから立ち上がり、デールズに一緒に来るよ
うに指示し、あるビルの方へと歩いていく。
(へえ、覚えていてくれたの?まあ、今は作戦に集中してもらわないとね)
と、聞えて来るセリアの声。
「ああ、君が作戦に集中できるようにな」
(そんな事、気遣わなくたって、十分に集中しているわよ。だけど、作戦が終わったらしっかり
と、約束は守ってもらうわよ)
セリアのぶっきらぼうな声が、リーの耳の中に響いてきた。構わずリーは歩き続ける。
「話を作戦に戻そう。私達がこれから会おうとしている人物は、『グリーン・カバー』の重役の一
人だ。非殺傷兵器開発部門の総括で、EMP(電磁パルス)兵器などを我々軍に提供してくれて いる。対テロ対策作戦の都合上、本部にいたときに何度も接触している人物だ」
リーとデールズは、オフィス街を真っ直ぐに進んでいき、目の前に聳え立つ高層ビル、敷地の
入り口に、『グリーン・カバー』という電子表示が現れている建物へと向う。
リーも何度か『グリーン・カバー』の本社ビルは訪れていたが、ここは、円筒型の30階建ての
ビルだ。兵器開発を行なっている会社であるという事を知らなければ、先端産業のモダンな本 社ビルにしか見ることはできないだろう。
『グリーン・カバー』イコール『タレス公国軍』に兵器を販売している会社。という事実は、軍本部
と『グリーン・カバー』の一定階級以上の社員でしか知らない事だ。
(わたし達が捜査をするという事が、相手方に知られていないでしょうね?)
『グリーン・カバー』のゲートを潜るリーとデールズに、セリアが言ってきた。
「正直の事を言うと、何とも言えない。以前私がこの本社に来たときは捜査目的だった。だか
ら、オットーも私がまた来た事を知れば、警戒するかもな」
リーは堂々と言って、『グリーン・カバー』の正面回転ゲートの中へと入っていった。デールズ
もそれに続いたが、
「少佐。その事については、既に解決済みだとおっしゃいました。先方には連絡を取ってある、
と」
だが、リーはデールズの言い分には構わず、『グリーン・カバー』の中へと入っていく。
「ホーム・ゲート内に、銃火器探知機と、社員証の照合機があったわ。あなた達は今、訪問者と
して扱われている」
それは、軍の技師が、リーに持たせた携帯端末から読み取った電磁波の情報だった。セリア
はその詳細なデータを読み取った機器の情報を、リーに口頭で伝える。
「ちょ、ちょっと、少佐」
セリアの通信機からの声に、デールズが割り入った。
「相手方に連絡は取れていたんじゃあ」
リーは脚を止め、まるで彼の言葉を説き伏せるかのように答えた。
「ああ、連絡は取れている。だが、ちょっと話し合いたいことがある、としてだ。この企業の秘密
の地下室に案内しろ、などとは言っていない。下手な内容は、相手を警戒させることになりか ねんだろ?」
そうリーは言うと、『グリーン・カバー』の受付警備員へと、手に持ってきたスーツケースを置い
た。
「リー・トルーマンだ。オットー氏に会いたくてやって来た。既に連絡は行っているだろう?」
と、リーがスーツケースを差し出したカウンターには、人はおらず、完全に無人化されている。
ただ、画面が現れており、カウンターに備え付けられているセンサーが、リーがやって来た事
を探知した。
「只今、ベンジャミン・オットーは、別件が入っております。誰ともお会いになれません」
カウンターの音声はただそのように答えた。落ち着いた女性の声ではあったが、はっきりと発
せられた言葉。その言葉の意味は完全に言い切ってしまっているものだ。
「ちょっと待て、そんなはずはないぞ。私は、オットーに連絡を入れた」
リーは、カウンターに向ってそう言った。
「申し訳ございません。また改めて連絡を取り、お越し下さい」
だが、リーが大きく出ても、相手の音声はしっかりとした響きと、変わらない口調でそのように
答える。
「オットーに連絡を取らせろ。こう伝えておけ。リー・トルーマンがここに来た。軍本部からの大
切な連絡だとな」
リーはカウンターに身を乗り出し、モニターに向ってそう言った。
周囲を見張っているデールズは、『グリーン・カバー』本社の1階フロアを行きかう、他の社員
に気が付かれないかとひやひやしている。
(リー。どうすんのよ? きちんと連絡を取ったのは、あなたでしょう?)
リーの耳元の通信機でセリアが言ってきた。
「只今ベンジャミン・オットーは、誰にもお会いになられません、また改めて…」
「ようし、私はこういう者だ。この身分証をスキャンして、偽者でないと分かったら、さっさとオット
ーに会わせろ」
そう現れているモニターに言い、リーは身分証をかざした。
「オットー部長。1階メインフロアに、リー・トルーマン氏がお見えになっております」
ベンジャミン・オットーのオフィスに、彼の秘書代わりのコンピュータの声が響いた。
だが、オットーは座っている椅子から立ち上がらず、目の前の、サングラスの男を見つめた
ままだ。
「オットー部長。1階メインフロアに、リー・トルーマン氏がお見えになっております」
「ああ、分かっている。今、考えているところだ」
この秘書システムの良くないところは、問いかけに返事をしなければ、何度も同じ言葉を、全
く同じ音声で言ってくる事だな、と、オットーはつくづく思うのだった。それは実に苛立つ性質だ。
自分で一番気に入った女の声を、ネットの電子秘書サービスからダウンロードして設定して
いるし、普段聞いているときは不快でも何でも無いのに、今日に限って、死刑宣告を受けるよう な声に聞えてしまうのは何故なのか。
「承知いたしました」
と、聞えてきた声は別段不快でもないというのに。
「どうするんです?オットー部長?」
サングラスの男が再度尋ねて来た。どうするかなんて、オットーには決められることではな
い。まさかあいつが来るなんて。
だが、彼はその場から立ち上がった。
「いいや、逃げも隠れもせん。このまま奴に会う。偽物の情報ならば幾らでも出す準備はできて
いる。いざとなったらそれを」
「やれやれ、軍に裏づけを取られて、あっと言う間に、証拠を捏造した罪で捕らわれてしまいま
すよ」
サングラスの男は、椅子に実を埋めたまま、まるで他人事のようにそのように言うのだった。
「そういうお前は、ずっとそこにいるだけなのか?」
と、オットーが尋ねた。
「分かりましたよ。一緒に行きましょう。ただ、私はあなたと一緒にいれば、先日の事がありま
すから、顔がバレちゃあまずい。離れた所で隠れていますけれどもね」
「高見の見物か」
呆れたようにオットーは言ったが、そんな彼の言葉を見越していたかのように、サングラスの
男は言葉を続けた。
「あなたは、そのリー・トルーマンという男に、真実だけを話せば良い。分かりますか?真実だ
けで良いんですよ。嘘をついちゃあ駄目です。下手にはぐらかそうとしても、あなたはすぐに顔 に出ますから」
「そんな事をすれば、私達が逮捕されるだけだ」
「だから、我々がいるんでしょう?私はいざと言うときのために対処しますが、リーという男の対
処については、彼女に任せましょう」
サングラスの男がそのように言うと、オットーのオフィスの入り口から、一人の女が姿を現し
た。
その女は、サングラスの男と同じようにダークスーツに身を包んでいたが、サングラスはかけ
ていなかった。そのため、どんな顔をしているのかがはっきりと分かる。
だが、はっきりと分かったからと言って、どうという事は無い。この女は、化粧気もない顔だっ
たし、表情も無ければ、特徴も無かった。
「彼女が、どうにかしてくれると言うのか?」
オットーは、その女の顔を見つめてそう言った。
「ええ、彼女ならば、そのリーという男を、始末することができるはずです。但し、リーと言う男を
一緒にいる男と引き離し、一人にすることが絶対条件です。一人でないと、彼女は対処がし切 れませんので、それには私が対処しましょう」
そういって、サングラスの男は立ち上がる。
「任せたぞお前達だけが、頼りだ」
リーとデールズの前に現れた、オットーという男は、普通のビジネスマン風の男だった。た
だ、着ているスーツの高級感がリーやデールズが着ている、軍の支給品のものよりも遥かに 高級だ。そこに両者の違いが大きく現れている。
オットーの顔にも大企業の上役としての、やり手の表情が伺える。だがその表情は、引きつ
っているように見えなくもない。
セリアは、バンの中のモニターに出現している、オットーの個人データと合わせて、リーがか
けている眼鏡のカメラから映し出される彼の顔をチェックした。
個人データの写真の方も、無愛想な表情をしている男だったが、リーが送ってきている映像
の方も、相当に無愛想な表情だった。
「なかなか良いキャリアを積み上げているみたいだけれども、その表情じゃあ、女性には好ま
れないわね」
と、ぼそりとセリアは言っていた。
彼女が見ているモニターに写っているのは、リー、デールズ、そしてオットーだけで他の人物
の姿は見えない。
オットーは誰も引き連れることなく、リー達の元へとやって来ていたのだ。
(やあ、トルーマン君。久しぶりだ。前にお会いしたのは、確か、新型の対兵器対策技術につい
て報告した時だったかね?)
社交辞令と共にオットーが言ってくる。リーは相手の握手に応じた。
(ええ、そうです。ですが、今回の要件は、前回とは少し異なる。是非、直接会ってお話がした
かった。ああ、こちらはデールズ・マクルエム。私の部署の者です)
と、リーも、オットーに応じた。
(よろしく、マクルエム君)
(ええ、ああ、はい)
デールズは、こういった場は苦手らしく、握手をする姿がどことなくぎこちない。
(ここで、話すべきかね?悪いんだが、私は今、少し忙しくてね。オフィスには)
(出来ればオフィスで話したい。周りに聞かれるわけにはいかない話です。軍の、機密事項な
ので)
リーの口調が変わった。相手の言葉を遮るように響くリーの声。オットーの表情が強張ったの
は、機密という言葉だったか、リーが言い切ったときだろうか。
(いや、しかし、先客がだね)
(では、どこかの会議室を使っていただいても良い。誰もいないところで話す必要があるので
す)
リーは食い下がらない。相手のペースに惑わされるどころか、逆に自分のペースへと引き込
んでいる。
その強引さが、あなたの売りよ。とセリアはリーと初めて会話したときを思い出し、心に思って
いた。
(じゃ、じゃあ、私のオフィスに上がってくれ。先客には帰っていただこう…)
オットーは、リーとデールズの顔を交互に見比べながら、その目線を泳がせていた。
(そうしてください)
(では、上がりたまえ)
オットーの不自然な態度、明らかに動揺しているような態度は、リーのメガネに付けられた微
細のカメラ越しに、セリアが見ている姿からも明らかだった。
「あとは、あいつが、下手な事を言って、捜査をおじゃんにしない事を祈るだけ、ね」
と、再びセリアはぼそりと言った。
「オットーからのご連絡です。“本日はお引き取り願いたい”との事です。申し訳ありませんが」
ベンジャミン・オットーのオフィスに響き渡る、事務的ながらも落ち着いた女性の声。彼が秘
書として設定している、コンピュータシステムからの声だ。
「ああ、分かっているよ、オットー。このオフィスへと連れてくるのだな。いい判断だよ。君が動
揺して、目を泳がせてでもいなければ、きっと相手には怪しまれない」
先ほどまで、オットーのオフィスでサングラスをかけていた男は、天井のスピーカーから流れ
て来た、秘書の声に答えるかのように、そう声をかけていた。
サングラスを外した彼は、ダークスーツとブラックネクタイと言う姿になっている。見た目もま
だ若々しい男で、30歳になったばかりの顔つきだった。
「なあ?君もそう思わないか?オットーの判断は、その時その時は、正しい。だが、全体を見る
と、綻びだらけだって?」
そのように言って、スーツ姿の男が見下ろした所には、さっきからオットーのオフィスに、男と
共に女がいた。
女は何も答えることはせず、スーツ姿の男を見上げた。それだけでも、スーツの男は相手の
言いたい事が理解できた。
「やっぱり君もそう思うかい?オットーだけにやらせていちゃあ駄目だ。今度の計画だって、私
達がいなければ、きっともっと前の段階で失敗していただろうよ」
見上げてきた女の眼に向って、まるで訴えるかのような口調で、スーツの男は言った。
「あいつは、資金と、取引の場を我々に提供しているに過ぎない。もしかしたら、何かしら理由
をつけ、我々を裏切るかもしれないね」
そう言って、スーツの男は、オットーのデスクの上にある、操作板の一つを、まるで、自分の
オフィスであるかのように操作した。
すると、オットーのオフィス内の空間に、画面が現れる。それは、この『グリーン・カバー』内に
ある監視カメラからの映像で、エレベーター内の監視映像だった。
エレベーターの中には、3人の男が立っている。一人はオットー。更にリーとデールズという男
だ。
『グリーン・カバー』の正面玄関を通過した者は、社内での会話は全て監視装置によって筒抜
けになっている。もちろんリー達も同様だ。
「このリー・トルーマンとかいう男。軍の関係者と言っていたが、どうも匂う。どこか、別のところ
で会っていたような気がするが、昨晩の件のもっと以前だ」
スーツの男は、監視映像に目を落とし、リーの表情を伺った。リーはエレベーターに乗ってい
る間も、見られている事に気がついているかのように、監視カメラを見上げてくる。
「まあ、いいさ。もしもという時は、君がリー達を始末しろ。それで万事片がつく」
と、スーツの男が言うと、女は黙って頷いた。
エレベーターの扉が開き、リー、デールズ、そしてオットーが外へと出る。
「いい加減、何故、ここに来たのか教えてくれたまえ。どうせこのフロアには我々しかおらんよ」
エレベーターから降りるなり、オットーはいらいらした様子でリー達に尋ねて来る。
リーとデールズは、彼が言った言葉が本当であるのかを確かめるため、周囲を見回したが、
確かに誰かがそこにいるという気配はない。
「良いでしょう。実は昨晩、我々が行なった、国内テロリストの、一斉摘発の件で参りました」
リーがそのように言うと、オットーの顔には明らかな動揺が走った。
「一斉摘発、ほう、そんな事が?」
もっともらしい答え方に、リーは相手にわからない程度に鼻を鳴らした。
「正確に言えば、テロ組織に協力している、地元のギャンググループですがね。彼らが、ある人
物達と手を組み、テロ活動に加担していると、我々は見ています」
リーははっきりとそう言い、相手の様子を見た。オットーは、動揺しているような素振りを変え
ない。先ほどから時々目線が泳ぐ。
「昨日、捕らえたギャンググループの一人が、テロに関与している組織の一つとして、貴社の名
を上げました。そのため我々は、あなた方に、情報の開示を求めます。秘密情報も含め、全て を」
リーがそのように言い切ると、オットーは明らかに動揺して答えた。
「秘密情報の開示など、そんな事は、司法長官の命令でも無い限り、できん!例え、軍が相手
でも!」
「司法長官の命令書ならば、こちらに」
と言って、デールズが、スーツケースの中から、一枚の書類を取り出した。
オットーはそれを乱暴に受け取ると、唾を飲み込む。
「い、いいだろう。来い。私のオフィスだ」
ベンジャミン・オットーのオフィスには3人の男達が現れる。部屋に誰かいた形跡はあったも
のの、今は誰もいない。
「秘密情報の開示と言ったが、具体的にはどのような事を知りたいのだね?」
「こちらです」
デールズは再びスーツケースの中から、今度はメモリースティックを取り出した。人の指ほど
の大きさと太さを持つそれは、データ端末で、ハードウェアを必要とせずに映像を空間に表示 することが出来る。
映写機も何も要らず、どんな画面にでも、写真等を表示することが出来た。
デールズが表示させた映像には、2人の男女、そして、所属不明の船が映し出されている。
それは、昨日の、ジョニー・ウォーデンら、ヤング・ソルジャーのアジトで行なわれた作戦時に、 部隊員が撮影した写真だった。
「捕えたギャング組織のメンバーが言うには、この二人の男女が、こちらの会社の人物だと言
います。ご存知ありませんか?」
デールズが、感情を押し殺したかのような言葉で尋ねる。
リーは、二人の男女の映像をはっきりとデールズに表示させたまま、オットーに近付く。真横
から見る彼の表情は、嘘を見抜かれまいと強張っていたが、眼は明らかに泳いでいる。
「さあ、知らんな。うちの社員ではないのかもしれん」
「捕えた連中は、はっきりと、貴社の名を名指しにしました。本当にご存知に?」
と、デールズが、オットーの背後から言う。
「知らん!社員の管理は私の管轄じゃあないんだ。人事部に行きたまえ。人事部のデータベー
スにアクセスして」
「こちらからも、アクセスできるでしょう?あなたは重役だ。全部署のデータベースにアクセスで
きるし、権限もある。私どもの空軍基地からもアクセスを試みたのですが、貴社のブロックは非 常に頑丈なため、あなたに権限を行使していただけた方が早く、確実だと分かりましてね」
リーがオットーの言葉を遮り、そう言った。
「か、勝手に調べたまえ。私は、知らんよ」
まるで開き直ったかのようにオットーは言った。そして、自分のデスクの上に置いてある、掌
サイズほどのデッキを指差した。
「そこのコンピュータデッキを使って、調べろ」
と言って、まるで自分は知らないという様子で、落ち着かない様子で、じっとリー達の方を向
いていた。
「それでは、失礼致しますよ」
リーは、オットーの態度を不審に思いつつも、コンピュータデッキに近付いていき、そのスイッ
チをオンにしようとした。
その時彼は、デッキの横、オットーのデスクに埋め込まれている、ある装置に目がいった。
その時、突然、オットーの部屋の扉が開かれ、一人の男が入ってきた。
「いやいや、失礼致しました。オットー部長から連絡を頂きまして、只今、人事部から参りまし
た。トルーマン氏はあなた?お手間を取らせてしまってすみません」
そのように、オットーのオフィスに響き渡るような声で入ってきた男は、ダークスーツを着込ん
でいる。背は高いが、体格は痩せていて、デールズの方が大柄なくらいだった。
「あなたは?」
リーよりも前に、デールズが、入ってきたスーツの男に尋ねた。
「私、人事部門で、『グリーン・カバー』の人事を管理しています、スペンサーと言う者です。あな
たがマクルエムさんですね?さきほど、オットーから」
「人事だったら、私達が、自分で調べる。IDとパスさえ教えてもらえればな」
スペンサーにそのように言い放ち、リーは、どんどんオットーのコンピュータを操作してしまっ
ていた。
「いえいえ、リー・トルーマンさん。駄目です。オットー部長のコンピュータからではアクセスでき
ないのです。わが社では、人事も機密扱いですからね。外部に漏れるわけにはいきません」
「ほう、そうか。だったら、早く言ってもらえれば助かったのにな」
リーは、鋭い眼で相手を見つめ、そう言い放った。多分、普通の人間がそんなリーの眼を見
たら、その鋭い視線に震え上がってしまうことだろう。
「こちらです。ご案内いたします」
だが、スペンサーと名乗ったこの男は動じなかった。代わりに、リーをオットーのオフィスから
外へと出そうとする。
リーは相手の顔をじっと見た。この男、どうも臭う。あのジョニー達の前に現れた、サングラス
をかけた男の顔がちらついた。
あいつではないのか。サングラスをかけていなければ、はっきりとは分からない。
だが、オットーのオフィスを出て行くときリーは、素早くデールズに耳打ちした。
「監視カメラの映像が、さっきからずっと再生されたままだ。秘書システムが作動しっぱなしに
なっているから、今机の上を見てみたんだが」
「それが、どうかしましたか?」
小声で言ったリーの声に反し、デールズの声は少し大きかった。
「我々は、誰かに監視されている。分かり切った事だがな。オットーを見張っておけ、人事部に
は私一人で行く。何かあったら、すぐにな」
「ええ、分かりました」
デールズがそのように言った直後、リーとスペンサーは部屋から出て行ってしまった。
オットーのオフィスに残ったデールズは、無表情のまま、部屋の中で落ち着かない様子で歩
き回っているオットーを見張った。
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