レッド・メモリアル Episode14 第3章



 ワタナベ・タカフミは、ある場所に連絡を入れていた。携帯電話からの連絡だが、この秘密基
地内にいる限りは、携帯電話の電波が探知される事は無い。外部からの居場所の把握はでき
ないようになっている。
(それじゃあ、まだあと一週間以上は戻って来れないのね)
 携帯電話の先の女の声がそう言って来た。
「ああ、そうなるな。だが今の世界の情勢を見てくれ。俺達が動かなきゃあならないって事は嫌
でも分かるだろう。俺達は重要なポジションにいる。動かなきゃあならないんだ」
 タカフミは電話先の人物にそのように言った。
(分かっている。それは分かっているわ。だからわたしはあなたを待つ。だけど言っておくけれ
どもね、わたし達がやる必要は無いのよ。あなたもわたしも十分働いた。それは20年間変わ
っていないでしょう?)
 電話先の女は行って来る。タカフミは、またその決まり文句を言ってくるのかと思う。
「ああ、それは分かっている。分かっている。でも、こうした危機の時には、大きな力を持った、
誰かが動かなきゃあいけないんだ」
 タカフミは電話にそう言った。ちらりと背後を見ると、部屋の一室に、アリエルとリーがいる。
二人は出してやったコーヒーに手をつけようともしていない。
(20年連れ添った仲よ。わたしはあなたを大切に思っている。それは忘れないでもらいたい
わ)
「ああ、分かってるよ。この危機が過ぎたらゆっくりと休暇を取ろう」
(じゃあね)
 そう言って電話はタカフミの方から切った。
 携帯電話を仕舞いこみながら、タカフミはじっと思う。周りに心配されるよりも早く、この危機
が過ぎ去って欲しい。
 そう思いながら携帯電話を大切なもののように両手で押さえつつ、リーとアリエルが座ってい
るソファーの元へと戻った。
「すまないね。『タレス公国』に住んでいる妻からの電話だ。俺は一カ月以上帰っていないか
ら、心配されてしまっていてね。この組織の仕事をしているからには、こんな事はしょっちゅうな
んだが…」
 愛想笑いをしながら、タカフミは二人が座っている席の向かい側に座る。この二人が今のタカ
フミの態度をどのように思ったかは分からない。だが、そんな日常的な姿を見せても、相変わ
らずアリエルの方は警戒的な眼でタカフミを見ているのだった。
 この娘を信用させるためには、全てを話してやらなければならない。タカフミはそう理解する
と、自分のために入れていたコーヒーには手を付けず、話を始める事にした。
「よし、アリエル・アルンツェンさん。余計な話はここまでにしておこう。事態も切迫して来ている
事だしな。何故、わたしや、ベロボグ・チェルノが君に固執し、このような計画を進めているの
かを説明しよう」
 タカフミは手を鳴らし、話を始める事にした。アリエルの視線がリーに向かって集中する。
 タカフミはソファーの間に置かれている、コーヒーの置かれたテーブルの上にある、コンピュ
ータデッキに、スティック状の操作リモコンを向け、その画面を展開させた。
 彼はコンピュータを操作している内に、話を切りだし始めた。
「我々は国際的な組織だ。その歴史を辿れば三次大戦以前にまで遡る。当初は、人体実験な
どを行うなど、人道に反した行いをしてきた組織だ。実は、俺もそんな人体実験をされた人間
の一人だった」
 タカフミはそう言いながら、過去に起きた出来事を思い出す。眼の前では画面が、折り紙を
開くように立体的に展開していく。そして、あるファイルフォルダを展開させていった。
「俺は組織の実態を知った後、ここに入った。そして内部から変革を行い、現在は、世界の安
定とバランスを司る組織として活動している。世界各地に拠点があり、それぞれ国の政府を動
かす事ができるほどの力がある」
 タカフミはやがて、ある写真をフォルダーの中から取り出した。立体的な光学画面の上にそ
の一枚の写真が浮かぶ。
「これはあなた?」
 アリエルがそのように言い、写真を指差した。
「ああ、そうだ。若いだろう?だが、重要なのはそこじゃあない、俺が握手している相手を誰だ
と思う?」
 そう言いながら、タカフミは20歳ばかり若い自分と握手をしている、頭一つ分は背の高い、
医者の姿をした男を拡大した。
「これは君の父親、ベロボグ・チェルノさ。彼も元々はこの組織にいた」
 そこでタカフミは言葉を切り、アリエルの顔を見つめる。どのように思っただろうか。アリエル
が何とも言えないような表情を見せている中、タカフミは話し始めた。
「その当時、君のお父さん、ベロボグは、慈善事業に熱心でね。我々の組織に医療を通じた慈
善で世界を変えていくという話を持ちかけてきた。俺もそれに協力をする事にした。旧『ジュー
ル連邦』地域の紛争が頻発していた時期だよ。お父さんの慈善事業を通じて、我々もその地
域を変革したいと考えていた。この時は、俺も彼は立派な人間だと思っていたものさ」
 タカフミはそう言いつつ、難民らしき子供達を診察しているベロボグの写真を次々に流してい
った。
「彼が病院まで建てる事ができる資金や、設備を投資したのは我々さ。彼が一代で財団を設
立する事ができるまでの資金を与えた。実際、彼の医療技術はこの東側の世界の医療を一変
させた。
 しかしながら、我々も彼の存在を警戒していなかったわけではない。ここまで財団を作り、財
力を展開させる事ができる人間には、警戒しなければならない。我々よりも強い力で政府を動
かされれば、世界のバランスが崩れる。案の定、彼を調べていく内に分かった事がある」
 そう言ってタカフミは更に画面を展開させ、そこに資料の一覧らしきものを展開させた。
「ベロボグには、少なくとも全世界に10人の子供がいる事が判明したのだ。国籍も人種も異な
る場合がほとんどで、これは全て異なる母親を持つ事を示している。父親はベロボグだが、彼
は世界各地で自分の子供を作っている。君もその一人」
 そうして、アリエルの目の前に差し出したのは、アリエルの出生記録だった。
「私は本当の母親を知りません。父だって、今だに私と養母を誘拐したあの男だって信じられ
ませんよ」
 アリエルは戸惑ったように言った。
「ああ、そうだろうな。だが、全員、ベロボグの息のかかった病院で誕生している。母親の記録
は全て抹消されており不明。今のところ、『ジュール連邦』の国家安全保安局に囚われている
シャーリ・ジェーホフ、ベロボグと共に、空爆を受けた病院から脱走した、レーシーと呼ばれる
少女は君も知っているだろう。彼女達とは異母姉妹という事になる。
 まあ、それはさておき、問題は、ベロボグが君達に何かをして、それを何かの為に利用しよう
としているという事だ」
 タカフミは堂々たる声でそのように言う。アリエルにはあまり刺激をかけないようにし、ただ静
かに事実を告げるのだった。
「あなた達は、その父の行為を支援していたのですか?」
 と、アリエルが言ってくるが、タカフミはすぐに彼女の言葉を遮った。
「いや、そうではない。確かにベロボグには資金提供をしていた。だが奴がそんな事をしている
などという事は、組織の監視の外にあった。もちろん、私が気づいた時は彼を止めようとした。
 結果として、ベロボグは組織を18年前に離反した。その時、組織の先端情報技術部門を奇
襲し、幾つかの機密技術を盗み出している。元より彼の目的は組織を裏切る事にあったのか
もしれん」
 タカフミはそのように言いながら、アリエルの目の前に展開している光学画面のスライドを動
かしていく。そこにはタカフミ達と、ベロボグの行って来た行いが、はっきりとした形で表示され
ていた。
「盗まれたものは、医療機材を初めとし、数多くの情報処理機器、そして、幾らかの人材だ。中
には我が組織にいた『能力者』までがベロボグの配下に寝返るほどだった。そして、こんなもの
も盗まれている」
 そう言って、アリエルの前に立体的な画面として差し出されたものは、何やら、赤い色のステ
ィック状の姿をしたものだった。その赤色は半透明によって出来ており、中に何かが流れてい
る。流れているように見えるものは、液体のようにも見る事ができるが、それは液体ではない。
光の流れのようなものがそこに流れているのだ。
「それが、この組織で20年ほど前に開発されたコンピュータさ。ベロボグの奴に盗まれて以
来、その在り処を探しているが、一向に姿が見当たらない。精巧に出来上がったモデルはベロ
ボグが持ち出したプロトタイプだけだ。奴が研究データも全て持ち出してくれたせいで、新しい
モデルを作り上げる事が出来ない」
 すると、アリエルは困惑したような顔で隆文の方を向いてきた。
「良く分かりませんが、これは一体何なのですか?」
 さすがに普通の高校生には分からないだろう。そう思ってタカフミは、図やデータで説明する
のではなく、分かりやすい言葉で言った。
「簡単に言うと、生体コンピュータと呼ばれるものだ。人体に直結して、脳に直接コンピュータ情
報を送り込み、実際に操作する事もできる」
「そんな物を、父が持ち出した?何の為に?また何か、テロか何かを起こす為とかですか?」
 アリエルにとってベロボグとは、テロリストのような存在にしか思えないのだろう。だがタカフミ
はベロボグの更に恐ろしい面を知っている。それこそが、彼の計画でタカフミが最も危惧してい
る点だった」
 タカフミはポケットから一つの端末を取り出した。それは画面つけられた探知機で、タカフミは
それをアリエルへと向ける。
 するとすぐに探知機は反応を示し、音を鳴らした。
「やはりな。君がそうなのだ」
「は?一体何が言いたいんです?」
 アリエルは変わらず困惑している。無理もないだろう。
「君に見せた、その赤い色をした生体コンピュータだが、実際は指先ほどのサイズしかない小
さな端末だ。それだけで、スーパーコンピュータ以上の性能を発揮できる。現物は二度と見る
事はできないかもしれないと思っていたが、どうやら、アリエル・アルンツェンさん。君がそれを
持ってきてくれたようだ」
 タカフミがそう言うと、アリエルは疑問の眼でタカフミを覗きこむ。
「一体、何を言っているんですか?私は着の身着のままで来ただけで、何も持ってきてはいま
せん」
 だがタカフミはそのくらいの事は理解している。そこで彼は一呼吸置いてからアリエルに話す
事にした。
「まあ、ぞっとするような事かもしれないが、落ちついて聞いてくれ。その生体コンピュータとや
らは、君の脳とすでに直結している。脳の大脳の部分に備え付けられているんだ。ベロボグは
まだ幼かったころの君の脳に、すでにコンピュータを装着させたんだ。そして、君は外の世界で
普通に暮らす事になった。
 生体コンピュータはデバイスと言われる端末を使って作動させない限り機能しない。君の中
に埋め込まれている生体コンピュータはまだ起動していないから、自分の脳にコンピュータが
埋まっているなど、想像もしなかっただろう。だが、今、探査をしてみたら確かにあった」
 アリエルの顔色が変わり、彼女は自分の頭に手をやる。
「そんな、恐ろしい事を、私がされている…?」
 アリエルは恐ろしくなったかのようにそう呟いた。
「それは確かな事実だ。だが安心してくれ、我々の開発したコンピュータは実に小さなもので、
脳に接続されていても、全く人体に害は無い。ベロボグも君を傷つけるような事はしていないよ
うだし、今のところそのコンピュータの事で心配はいらない。問題はベロボグがそれを使って何
をしようとしているかだ」
 タカフミがそう言う中、アリエルは何かをじっと考えている。実の父親の存在や、得体の知れ
ないコンピュータが頭の中に埋め込まれていると言う事に、恐ろしさを感じているのだろうか。
だが、そうではなかった。
「私、一度父の組織の人達に拉致された時、頭の中に何かをされました。私の持つ『能力』に
ついて調べられたのかと思いましたが。そうではなく、もしかして生体コンピュータというものが」
 アリエルが言いかける。タカフミはリーと顔を合わせてお互い頷いた。
「なるほど、ベロボグも恐ろしい事を自分の娘にするものだ。もしや、君は脳を調べられた後、
自分の『能力』に何か変化が起きたのを感じなかったか?今までにはない、異常な出来ごとが
起こるようになったとか」
 するとアリエルはすかさず答えてきた。
「ほんの一時的な状態でしたけれども、私の持つ『能力』。腕から出る刃が非常に大きくなりま
した。あと、足からも出てくるようになっちゃって」
「ベロボグがやろうとしたのは、人体実験だ。生体コンピュータを使い、人間の体に大きく働き
かける。『能力者』の『能力』を飛躍的に向上させるのも、ベロボグの計画の一つだろう。現に、
奴の組織にいる君の姉妹達の『能力』は年齢の割に、異常なほどの『能力』を発揮している。
ベロボグがやりたいのは、優秀な兵士を作りだそうと言う事なのか」
 タカフミはそう言いながら、目の前の立体の光学画面を操作する。そしてその中から、まだ電
子時代以前の、紙の書類をスキャンした画像を取り出した。
「これはその昔、我々の組織が行っていた実験の証拠だ。この計画はもう80年以上になるも
のだが、『旧紅来国』にて行われた実験で、優秀な『能力者』を作りだそうと言う実験だ。当時
の世界大戦を前にして、おおよそ600名が人体実験にかけられていたと推測する。そして、俺
もその実験の被験者だった。
 後に自分が創り出された『能力者』である事を知った俺は、同じ実験を受けた被験者たちと
結託して組織を今の形に造り変えた。今後は、逆にこうした人体実験をさせないようにとな。だ
が案の定、ベロボグという男によってそれは行われているようだな」
 タカフミはそこまで言ってしまうと一息をつくのだった。
「あなたも『能力者』。そういう事なのですか?」
 アリエルが言ってくる。タカフミは頷いた。
「ああそうだ。俺も『能力者』さ。但し、作られた『能力者』であるけれどもな」
 タカフミがそう言うと、まだどことなく疑ったような表情を向けているアリエルにリーが口を挟
む。
「アリエル。彼の言う事は信用したほうが良い。彼の話した事はすべて真実であり、ベロボグが
やっている事も全てが真実だ。奴は君や実の娘達を使う事で、世界に脅威を与えている。戦争
さえ起こす事ができる」
 リーも真剣なまなざしとなってアリエルにそのように言った。だがアリエルはそのソファーから
立ち上がると、タカフミやリーには背中を向けて話し始めるのだった。
「正直。私はもう誰も信用できなくなっています。信用できるとしたら、養母くらいのものでしょ
う。あなた達が言っている事だって、私は信用し難い。あなた達に無理矢理拉致されて、今度
は、頭の中にコンピュータが入っているとか。
 あのですね。私は、私を拉致したあの人が父親だって言う事すら、まだ信じていないんです
よ。そう。私の父親や母親はとっくの昔に死んでしまっている。そう思いたいくらいです。今、世
界で戦争が起こっているとか、自分の生まれた国に攻撃が仕掛けられているとか、そんな事は
もうどうだって良い事なんですよ。私は、元の生活に戻りたいんです」
 アリエルはそのように言い放った。それが彼女の本心であるのだろう。タカフミが彼女に突き
つけた現実は18歳の高校生にとってはあまりに重すぎるものだ。
 だがタカフミは自分もソファーから立ち上がり、アリエルの元へと近づいていくなり、彼女に真
剣な目を向けて言った。
「似ているな。俺達が、実験の被験者だと言う真実を明かされた時と、君の今の姿は良く似て
いるよ。俺も自分が創り出された『能力者』だと告げられた時は、ショックだったし、元の世界に
戻りたいとも思った。だから君の今の気持ちは分かる」
 タカフミはそうアリエルに言うが、彼女の瞳は揺らぐばかりだった。
「だが、もし君が我々に協力してくれなければ、この戦争は止められない。君のお父さんが次に
何をしでかすか分からない。そして、君は自分の養母に会う事も出来なくなるかもしれない。さ
らに、我々が突きとめている、君の母親とも会う事が出来ないだろう」
 タカフミは言葉を続け、アリエルを揺さぶった。あくまで脅迫ではなく、彼女を自分達に協力さ
せたいためだ。
「私の、本当の母親、ですか?」
 アリエルはさすがに動揺している。
「そうだ。君の本当の母親を我々は突きとめている。ベロボグに利用し、君を生む為の、言葉
は悪いが媒体にされた女性を突きとめている」
 タカフミはそう言って、リーの方を振り向いた。リーは黙って頷き、タカフミは立体画面の方に
手を伸ばす。すると立体の光学画面からは、光学画面が一枚紙の様に出てきた。その一枚の
画面をアリエルに差し出した。
「この人に会いたくはないか。ベロボグを追っていれば、君は実の母親に会う事ができる」
 アリエルはタカフミが差し出した光学画面を手で掴む。瞳は揺らぎながらその画面へと向けら
れ、かなり動揺している事が分かる。
「この人が、私の母親なんですか?本当に?」
「ベロボグは巧妙に記録を消していたが、組織に記録が残っていた。だから我々にはそれが分
かる」
 タカフミははっきりと言った。
 アリエルは動揺した瞳のまま、実の母親の顔写真を見つめる。その瞳は涙を流そうとしてい
るのかどうか、タカフミには分からなかったが、アリエルの心を揺さぶる事が出来ているのは確
かだった。
「確かに、私も実の母親に会いたいと思います。こうして写真だけじゃあなくって、実際に会え
ば、その人が、私の母親であるかどうかが分かるはず。だから私はこの人に会いたいと、そう
思います」
 アリエルははっきりとそう言うのだった。
「そうか、じゃあ、アリエル。君のお父さんの計画を止めるとしよう。これから、俺達についてき
てくれるか?」
 ここでアリエルに決断させるべきだとタカフミは思っていた。そうする事が彼女の為だし、彼女
自身に決断させ、自分達は何も関与する事はできない。
 しかしながら、アリエルは結局のところ、組織について来なければならなくなるだろう。そうしな
ければ彼女はベロボグに利用されるだけしか生きる道がない。
「私には、まだ決める事が」
 アリエルがそのように言いかけた時だった。
 突然、部屋の照明が消え、テーブルの上に展開していた立体画面さえも消え失せた。そし
て、全てが暗い闇に包まれる。
 空調システムさえも音を消し、全くの無音の中にその場にいた者達は閉じ込められた。


「画面が消えたわ」
 フェイリンから渡されていた携帯端末の画面が突然消えうせ、セリアは思わずそう言ってい
た。
「双眼鏡の電子画面も消えてしまったわよ」
 フェイリンの方も拍子ぬけたかのようにそう言うのだった。
 すでに彼女らが張り込んでいる棄てられた操作場の周辺は夜になっている。セリアが軍の基
地から持ち出してきた車の中にいる二人は、ずっとその場で張り込んでいた。ここ2時間ほど
は何も変化が無かったが、突如として変化は現れた。
「これは一体、どういう事?あなたのコンピュータが壊れたとでも言うの?」
 セリアはそう言いながら持っていたフェイリンの携帯コンピュータを叩いて見たが、全く反応が
無い。
「何かが起こっているのかもしれない。ここから移動した方がいいわ。もしかしたらわたし達が
いる事がバレたのかもしれない」
 フェイリンはそのように言って、運転席に座っていたセリアを促した。
 セリアはすかさず車を動かそうとしたが、車のキーを入れても全く動く様子が無い。電気系統
も全て停止している。
「これってどういう事?車が動かないの?エンストじゃないわよね」
 半ば焦った様子でフェイリンが言ってくる。エンストでは無い事はセリアにも分かっていた。こ
れはエンストなどと言うものではない。
「こんな事をしてしまえるのは、エンストなんかじゃあないわよ」
 セリアは周囲の様子に警戒を払いながら、そのように呟くのだった。
Next→
4


トップへ
トップへ
戻る
戻る