レッド・メモリアル Episode21 第4章



『エレメント・ポイント』
7:22P.M.

 その頃、『エレメント・ポイント』と呼ばれるベロボグ達の新たな拠点では、じっと構えられたベ
ロボグの武装した部下達の間を縫って、10人ほどの若い男女が連れられてきていた。
 この『エレメント・ポイント』は大部分が鉄骨がむき出しの姿という建物で、大半が地中から何
かをくみ出すような設備としてできていたが、住居地域も設けられている。これはもともと作業
員の為に作られた設備となっていたが、ベロボグの配慮で、人が住むことができるような設備
も用意されている。それも、長期間滞在をする事ができるようにと、食料も設備もきちんとした
ものが用意されている。
 彼らはその中の会議室のような所へと通されていた。
 ベロボグは自分の息子、そして娘達をこの地へと集め、すでに次の計画を進めようとしてい
た。計画のためには、シャーリ、レーシーだけでは足りない。彼が遺産としてこの世に残した子
供達の力が必要だった。
 その中の一人が、いい加減飽きたと言った様子で、彼らをここへと連れてきたジェイコブに向
かって言うのだった。
「おい、いい加減暇だぜ。何か茶でも出したらどうだ?」
 ふてぶてしい態度でそう言ったのは、『WNUA』側からやって来た一人の若い男だった。いか
にもな若者と言った様子で、その態度を見せつけている。
「こんな心気臭せえところだとは聞いていなかったぜ。外もクソ寒いしよお…」
 そう言ってその若い男は、ジェイコブの前まで来て言うのだった。
 ジェイコブはその男に対してあからさまな嫌悪感を示し、彼に向かって言った。
「お前。自分の置かれた立場が分かっているのか?お前は、自分の父親の命令に従っていれ
ばいいんだ。お前達は客だ。客は大人しくしていろ」
 ジェイコブはその男に対して念を押した。そう言っても、その若い男は不敵な顔を崩さなかっ
た。あたかも、それはまだ世間を知らず、愚かな若い者であるかのようだったが、
「まあ、まあ、良いではないか。ベロボグ氏の可愛い子供が来たものだと、そう思っていれば良
いだろう」
 そのように言って間に入ってきたのは、ストラムという男だった。
 顔を半分隠した不気味な姿をしていたが、まるでこの場をなだめるかのような声を出す。
 すると、若い男は、ストラムの方に向かい、
「だとよ、この爺さんの言う通りだ」
 若い男にそう言われたストラムは、
「ははは、私が爺さん?まあ、そう見えても不思議ではないがな。まあ良いだろう。君の名前は
何という?」
 ストラムはそう尋ねた。
「俺はジェフだ。ジェフリーが本名だが、皆ジェフっていう」
「ほうほう、そうか、ジェフ。お前はまだ学生と言ったところだろう。高校生か?まあいい。だが
な、大人の世界にはある程度の礼儀というものがある。それを知らないと、色々と面倒事に巻
き込まれるぞ…」
 そのようストラムは、大人が子供に言い聞かせるかのように言うのだった。
「爺さんよお…、偉そうなお説教は結構だが、俺達が何でここに集められたか、あんたは知っ
ているんだよなあ…」
 ジェフはふてぶてしい態度でその場の椅子に座りながら言うのだった。
「もちろんだとも。君達が、ベロボグ・チェルノの子であるから、こうしてここにいるというわけだ」
 即座にストラムは答える。当然の事を述べるかのような口調だった。
「じゃあ、あんたは何故ここにいる?」
 ジェフはそう尋ねるのだが、ストラムはその焼け爛れた顔に、笑みを浮かべるばかりだった。
「ふふ。私は何というか、ベロボグ・チェルノ氏への情報提供者とでも思ってくれればよい。彼が
有益としている情報を私は持っているのだ。ここへは、特別なゲストとしてやってきたのだよ」
 その声にジェイコブは顔をしかめるのだった。ストラムと名乗るこの男は、必要以上にベロボ
グ・チェルノの組織の事について知りすぎている。だからこそ、ここへと連れてくるべきだった。
 ジェイコブは傭兵として活動してきて、ベロボグにその能力を認められ、配下となったが、戦
時中、このような危険な男は即座に拷問にかけ、必要な情報を聞き出して抹殺してしまうべき
だ。
 やがて、広間の扉が開く。そこから現れた人物に、中にいるベロボグの子らは、思わず畏怖
の目で現れた者の姿を見た。
 ベロボグ・チェルノがこの場へとやって来た。ヘリでの出迎えの時も、ベロボグの子らは彼の
姿を見ていたはずだったが、やはり彼が人前へと出てくると、その場の空気を変える事が出来
てしまう。
 ベロボグがその場に現れると、子らは道を譲った。彼は車椅子に座り、その顔の半分ほどが
焼け爛れているという姿で、車椅子も彼が最も溺愛している娘のシャーリに押されていると言う
姿ではあったが、その堂々たる姿は変わっていなかった。
「待たせてしまったね。私の子供達よ」
 ベロボグは広間の最も目立つ場所へと車椅子を移動させ、そのように言うのだった。
「私が何故、君らをここに呼び寄せたか、それについては君ら自身が良く知っているはずだ。
何故、他の者達ではなく、君達だけが引き寄せられるようにこの地に来れたのか。それを良く
知っているはずだと思う。
 君達はそれを、イメージとして認識する事ができたと思う。私が発信させた信号によって、君
達の中に眠るデバイスが作動させられたのだ」
 そのベロボグの言葉に、部屋にいる彼の子供達は顔を見合わせるのだった。
「デバイスとは、一体、あなたは何を言っているのですか?」
 ベロボグの言葉に、彼の子の一人が質問をした。
「君達は、私の子供だ。皆、それぞれが、様々な環境で暮らしてきたと思うが、皆、私の子供で
あるという事に変わりはない。今、この世界を覆っている危機。その危機から分離独立を果た
し、新たな王国を作り出す事ができる力を、君達は持っている」
 ベロボグはそのように皆に言うのだった。彼らの間にどよめきが広がる。まだベロボグが何
を言ったのか、その言葉を理解できないのだろう。
「あんたは、一体何を言っているんだ?」
 ジェフがそう言った。彼の言葉の態度はベロボグの前でも変わらない。彼のふてぶてしい態
度、そして横暴なまでの姿勢が、シャーリの癪に障ったらしい。彼女は顔をしかめていた。
「君たちの脳には、あるデバイスが埋め込まれている。それは、コンピュータ回路よりも小さな
ものであって、君達自身に害は無い。だが、君達は、そのデバイスによってこの地へと導くよう
に仕向けさせてもらった。
 勝手な事かと思うかね?だが、こうして親と再会する事ができたし、これから君達には、この
世界をも左右する事ができる力を授けたいと思っている」
 ベロボグはそう言って、自分の後ろにいるシャーリに動かせる方の指で合図をする。するとシ
ャーリは、ステンレスのケースを持ち出し、広間にあるテーブルの上へとそれを乗せるのだっ
た。
「生体コンピュータというものは、まだ世の中には知られていない。君達にとっても見るのは初
めてだろう。私はこれに『レッド・メモリアル』という名をつけた」
 ベロボグがそう言うと同時に、シャーリはその『レッド・メモリアル』が入ったケースを開いた。
するとそこからは赤い光が溢れ、透明な色をした指ほどの大きさの直方体のプラスチックのよ
うなものが入っている。
 広間にいる者達がそれに見入る。『レッド・メモリアル』と名付けられたその物体は、ケースの
中に8つセットされてあった。
「さあ、手に取りたまえ、君達にはこれを使う権利がある。ここにいる7人。私の子のために用
意をした。このデバイスを使えば、この世界にある全てのコンピュータを支配する事ができる。
そうすればすなわち、この世界に新たな王国を作り上げることができるのだ」
 ベロボグはそう言い、固く拳を握りしめ、己の手を上げるのだった。
「あんたの言っている事を、そう簡単に信用できるのかよ」
 ジェフがそのように言うのだった。
「なら、それを試してみなさいよ。一度使ったら、病み付きになるわよ」
 シャーリがベロボグの代わりに答える。シャーリはその銀色のケースの中に入っている『レッ
ド・メモリアル』と同じものを一つ取り出して、それをジェフへと見せつけるのだった。
 ケースに入っているものとは少し違い、シャーリが手の上に載せているものは、赤いガラスの
ような内部を、白い糸のような光が流れていた。それがただの透明な塊ではなく、何かしらの
電子媒体であるという事が分かる。
 しかしながら『レッド・メモリアル』はどこにも差込口がなく、コンピュータデバイスとしてどのよう
に使ったらよいのか、見た目だけではわからないだろう。
「さあ、あなた達もこれを使ってみなさいよ」
 シャーリはそう言って、自分の目の前にいる7人のベロボグの子らを促すのだった。
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