レッド・メモリアル Episode22 第3章



「前方に赤色の光を発見。光の強さはだんだんと増している模様」
 リー達を乗せたヘリの操縦士がそのように言ってきた。すると、この部隊の指揮官であるハ
ワードは立ち上がり、ヘリの操縦席の方、前方を見渡すことができる座席へと向かう。
「赤色の光とは何だ?あれか?」
 リーも後部座席の方から操縦席の窓を覗き見る。後部座席からでもはっきりと分かるほどの
光だった。
 暗闇に覆われている極寒の海上の上に、突き刺してくる針のような赤い光が灯っている。そ
れはあたかも灯台であるかのようだった。
「あそこに建造物はあったか?」
 ハワードがそう言うとヘリの操縦席に設けられた光学画面の地図が動作し、赤い光が灯って
いる位置を突き止める。そこは、リー達が目指している地点と一致した。
「目標地点です。目標地点《エレメント・ポイント》で赤い光が灯っています」
「本部に連絡だ。《エレメント・ポイント》の空中からの衛星画像を手に入れろ、到達前に何が起
こっているのか突き止めろ」
 ハワードは少しも考える間もなくそのように言うのだった。
 間違いない、『エレメント・ポイント』で何かが起ころうとしている。それがはっきりとした光とし
てここまで伝わってきているのだ。
「アリエル」
 リーは思わずそのように言っていた。『エレメント・ポイント』がついに起動したのではないの
か。そして、その地に向かったアリエルは?
 ベロボグが長年追い求めてきた『エレメント・ポイント』の起動。それが、只事で済むはずがな
いのだ。
「ヘリを急がせる事はできるか?」
 リーはそのように尋ねるが、
「まずは本部に確認を取ってからだ。一体何が待っているか分からんのだからな」
 そのようにハワードは答える。
「ああ、分かった」
 今、これから何かが起ころうとしている。それだけは明らかだった。

 一方で、その『エレメント・ポイント』の施設内で監禁されているストラムは、施設全体が揺れ
始めている事に気が付いた。
 石油採掘基地を思わせる鉄骨が剥き出しの天井や壁は振動を立て、あたかも地震が起こっ
ているかのようだった。それもすでに数分間が経っている。
「何が起きているのだ?」
 ストラムは椅子に座らされたままそのように尋ねた。ベロボグ達は手厚い歓迎をしてくれた。
密室に監禁されてはいるが、両手に火傷をしているという事もあって、手錠はかけられていな
い。両手は自由に動かすことができる。
「お前には関係の無い事だ」
 そのように見張り役についている男が言って来る。いかにも屈強そうな姿をしており、背を埋
めたかのような、そして全身に痛々しい傷を負っているストラムではとてもかないそうにない。
「という事は、この施設はもう動き出したのだな?」
 ストラムは椅子から立ち上がりつつそのように言った。
「いいから椅子に座っていろ」
 そのように男は言って来るのだが、
「残念ながらそういうわけにはいかないのでね」
 と言いつつ、素早く動き出した。
 見張りについていた男は、まさかストラムがこんな素早さで動くことができるとは思ってもみな
かっただろう。あまりの素早さにその男は対応する事ができなかった。ストラムは手にしていた
何か尖った金属製のカッターのようなものを使い、男の急所を一突きしていた。
 首元を抑えながら、そして溢れる血を抑えながら、揺れている床へと倒れていくその男。だが
もう無理だ。頸動脈を切断したのだから。
 ストラムは自分の手が震えているのを感じていた。一人の男を始末するのに、ここまで力が
必要だったものだとは。
 この大火傷さえ負っていなければ、こんな男一人を始末するのはたやすかったはずだ。
 だが、この大火傷を負う事ができたからこそ、ここまでベロボグの近くにまで侵入する事がで
き、奴らの計画も暴くことができる。
 ストラムは、倒れた男の腰から拳銃を取りだし、慣れた手つきで、多少腕が震え、銃の重さを
感じながらも、弾が装てんされているのを確かめた。
 これで、あとは、来るべき者達をここへと呼ぶだけで良い。そうすれば、ベロボグ達が得よう
としているものを、自分達のものにする事ができる。
彼らが莫大なエネルギーを地中からくみ出そうとしているならば、それは誰かの手に渡らなけ
ればならないのだ。
 ベロボグの組織でもない、『WNUA』でもない。それはこの領海を支配しているはずの『ジュ
ール連邦』がふさわしい。
 扉をそっと開き、ストラムは銃を構えながらゆっくりと慎重に動き出した。もはやそこには老人
のように弱弱しい姿は無かった。施設が振動し、どこかで何か巨大なものが動き出そうとして
いる事が分かる。
 それが何なのか、ストラムは分からなかったが、ベロボグ達が何を狙っているのかという事
は分かる。それを伝えるためにも同志達に連絡を入れなければならなかった。
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