レッド・メモリアル Episode22 第6章



 リー達を乗せたヘリは、迎撃ミサイルによって、何とか地対空ミサイルをしのぎながら、『エレ
メント・ポイント』へと滑り込むかのように着陸していた。
「『エレメント・ポイント』へと着陸。即座に攻撃に入る!」
 そのように隊長のハワードは無線機に言い放ち、行動に移る。
「ベロボグ・チェルノの身柄の確保が最優先だ!この施設では、何かが行われている様だが、
気に取られるな」
 部下に向かって言い放つハワード。しかしリーは銃を抜き放ちながら言うのだった。
「いいや、この施設で行われている事を知る事の方が、ベロボグに近い。恐らく奴らはすでに
鉱脈を発見している。そして『レッド・メモリアル』の掘削装置も作動させているはずだ」
 するとハワードはリーを睨んできた。
「そっちの方についてはあんたがやっていろ。とにかく、我々はベロボグ・チェルノの身柄の確
保の方が優先だ」
「あんたも、『レッド・メモリアル』を確保するように、上から言われているんじゃあないのか?」
 ハワードの背中に向かってリーはそのように言う。ハワードは振り向きもせずにリーの事は無
視した。
「施設内には民間人もいる模様だ。発砲の際は気を付けろ」
 そう言うなり、彼は自らもマシンガンで武装しながらヘリから降り立つのだった。すぐさま、激
しい銃撃音が聞こえてくる。すでにテロリスト達と『WNUA軍』との間で激しい交戦が行われ始
めていた。
(ああ、リー?聞こえているか?)
 そのように銃撃音の向こう側から聞こえてくるかのような声は、専用回線で無線を繋げている
タカフミの声だった。
「聞こえている。だが、これから私も交戦状態に入るからな」
(ベロボグやアリエル達がいるのはおそらく、その『エレメント・ポイント』の施設、フロア13にあ
る中央制御室っていうところだぜ。そこが、この施設の中核になっている)
「ああ、分かっている。この部隊もそこを目指して動くだろうよ」
 リーは耳の中の無線機に向かってそう答えた。
(一応、確認の為に言っておくぜ。『レッド・メモリアル』は接続された状態から突然外されると、
脳に大きなダメージが走るんだ。だから、まず接続をアリエル達の意志で解除させなければな
らない。そこのところを気を付けてくれよ)
 タカフミが念を押すように言って来る。もちろんそのことはリーもすでに承知の事だった。アリ
エルに何かがあってはならない。
 部隊の後に続く形で、リーは銃を構えて降り立つ。
 そうだ、リーはここに『レッド・メモリアル』も目的としてやって来たが、それだけではない、アリ
エルを救いに来たのだ。この『WNUA軍』の者達は、アリエルの身を案じてはいない。ベロボグ
の抹殺と、『レッド・メモリアル』を回収する事が目的のはずだ。
 ハワードの部隊の隊員達は、即座に制圧した。武装したベロボグの部下達がヘリポートには
いたが、数人程度。所詮は一流の軍の突撃部隊には適わない。
「行くぞ!続け!」
 ハワードがそのように隊員達を仰ぎ、一行は《エレメント・ポイント》の施設内部へと突入して
いった。
 地震のような振動が響き続け、赤い色の閃光が灯台から輝いている。

 シャーリは警告サインが出た事を知った。
 『レッド・メモリアル』を使い、この《エレメント・ポイント》と直接接続している時は、自分の体が
無防備な状態になる。それはほとんど眠っているという状況に等しい。
 だが、外部からの警告アラームが鳴れば、皆即座に目覚めることができる。しかしそれは、
コンピュータをそのままにして離席するようなものだ。
 外側から無理矢理『レッド・メモリアル』を外されれば、激しい頭痛と共に脳にダメージが走
り、シャーリ達はたたき起こされる事になる。コンピュータの電源プラグをいきなり抜き取られる
ようなものだ。だが自分から接続を解除する事は容易であるし、脳にも異常は起こらない。
 だからシャーリは警告アラームが鳴った時、即座に起きようとした。制御室にいるお父様に何
かあったかもしれない。そうでもなければ警告アラームはならない。
 シャーリ達は、《エレメント・ポイント》の心臓部に手を当て、今、まさに地底の底からエネルギ
ー体をゆっくりと引き出そうとしている最中だった。もう、エネルギー体は解放されている。
 原子炉の炉心を抽出してきたようなもので、あとはそれを安定化させればよい。そうすれば、
原子力発電所が電力を生み出せるように、大きなエネルギーを安定して引き出すことができる
のだ。
 しかしその直前の段階に来て、警告アラームが鳴ってしまうとは。ここまで順調にやって来る
事ができたのに。
 シャーリにとっては、何よりもお父様の事が大切だった。正直のところ、彼の計画、そしてこ
のエネルギーの事よりも、お父様の方が大切なのだ。
 シャーリは、《エレメント・ポイント》の中枢部を示すプログラムの柱から手を離そうとした。もし
手を離せば、プログラムがぷっつりと途切れてしまい、エネルギー体は半ばの所で停止してし
まう。
 そしてそれは不安定なエネルギーを引き出したままという、非常に危険な状態になるのだ。
「駄目だよ、シャーリ!」
 隣でプログラムを操作しているレーシーがそのように言ってきた。
「警告アラームが鳴っている事に気が付かない?外で何かが起こっている。『WNUA』の奴ら
もこっちへ近づいているって、お父様が言っていた。もしかしたら、すでに攻撃が始まっている
のかも」
 シャーリはその事を危惧する。『WNUA』がこの地に向けて進撃をしてきている事くらいは、
すでにベロボグ達は知っていた。
 しかしながらレーシーは、
「その人達なら、外の皆が何とかしてくれるから!お父様は、その攻撃も想定の範囲内って言
っていたし!」
「いいえ、駄目。『WNUA』の奴らの襲撃くらいならば、警告アラームは鳴らない!これはお父
様に何かあったから!制御室まで攻撃が及んでいるから!」
 そうだった。警告アラームが鳴るのは、あくまでも、制御室内にまで攻撃が及んでいる時のみ
だった。
「シャーリ、5番がいない!ジェフって奴の!」
「いない、ですって?あいつ起きたっていうの?じゃあ、エネルギーは不安定なままじゃあな
い!」
 シャーリはいてもたってもいられなかった。電子の海を泳ぎ、即座に自分も起き出そうとす
る。接続された状態から起きるのは簡単だ。
「ああ、もう、シャーリってば!」
 レーシーも即座に接続から外れてきた。今、何かが外で起きている。危険が迫っているの
だ。

 シャーリは素早く寝台から飛び起き、側に置いてあったショットガンを手に取っていた。この制
御室内で何かが起こっている。
 接続中の自分達が知る事はできなかったが、確かに何かが起きているのだ。
 シャーリがショットガンを手にして起き上がると、すぐにその場で起きている異変に気が付い
た。
「これはこれは、お目覚めか」
 そう言って来る男の姿がある。本来ならば、この場にいないはずの者の姿。それはあのスト
ラムと名乗っていた男だった。
 彼は、シャーリの父ベロボグの体を車椅子に座らせ、その背後から銃を向けている。
 お父様が人質に取られているのだ。
 このストラムと言う男は、どのようにしてここに侵入してきたのだろうか。見回せば、部下達が
撃たれ、倒れている。たった一人でこの場所まで彼は侵入してこれたのか。
「お前、こんな所で一体何をやっているっていうのよ」
 シャーリはショットガンの銃口をストラムへと向けて近づこうとした。だが、この距離では撃つ
事ができない。ショットガンを撃てば、その弾がお父様に当たってしまう。
「何って、仕事だ。とても重要な仕事なのだよ」
 そのようにストラムは言ってきた。
「やはりお前、どこかと通じていたのね。その言葉の使い方だと、恐らく『ジュール連邦』。すで
に滅んだ国の連中が、この莫大なエネルギーなど取り扱えるとでも思ったの?」
 シャーリはそう言って、ストラムとお父様の方へと距離を縮めようとした。
「エネルギー?確かにそれにも興味があるが、我々の当初の目的は違う。その『レッド・メモリ
アル』というデバイスだよ」
 ストラムはそう言って、火傷で覆われている顔の目線を、制御室中央で稼働中の赤い光を放
つ『レッド・メモリアル』の方へと向けるのだった。
「今まで、我らのほんの近くにあったというのにな。どうしても手に入れることができなかったも
のだ。その技術さえ手に入れる事ができれば、『ジュール連邦』は再興し、再び覇権を手にす
る事も夢ではない」
 そのストラムの言葉には、銃を向けられ、自分では抵抗する事ができないベロボグが答える
のだった。
「血迷った事を。今、『レッド・メモリアル』を外してしまったら、この施設は制御不能になってしま
う」
「ほう。そしてどうなるというのだ?」
 ストラムはベロボグの耳元で囁いた。
「臨界的な大爆発を起こしてしまうだろう。『レッド・メモリアル』共々、海中に沈むことになる」
「ほう、それは大変だ。だが、我らにとって必要となるのは、たった一つの『レッド・メモリアル』
だけでいい。一つあれば、十分に技術を手に入れることができる」
 その時だった。シャーリの隣で横になっていた、レーシーがとっさに身を起こす。
 機械と一体化している彼女の肉体は、すぐに大型の兵器を腕を変形させる事によって取り出
し、それをストラムの方へと向けた。
 だが、ストラムは、
「お前もだ!近寄れば、お前達のお父様、がどうなるか分かっているだろう?」
 と言い放ち、ベロボグのこめかみへと銃を押し付ける。
 シャーリもレーシーも動くことができない。体が満足に動かせないベロボグも同様だった。
「シャーリ、レーシーよ。お前達は、私の事に構う事は無い。ただ目的を遂行しろ。このような連
中のいいなりになる必要などないのだ」
「しかし、それではお父様が!」
 シャーリは叫び声にも似た声を上げた。
「構わぬのだ!」
 ベロボグがそう言ったとき、銃声が響き渡った。警告アラームが鳴り響く。
 制御室内の装置の一つが破損し、そこから煙が上がるのだった。火を噴いていたのはシャ
ーリのショットガンだった。
「貴様。やりやがったな。脅しってものも知らないガキめが」
 そう言って、続いてストラムが持っていた銃が火を噴く。彼も今のシャーリのショットガンの散
弾が掠めており、肩に被弾していたが痛手ではなかった。
 ベロボグのうめき声が上がる。彼は足を撃たれた。
「お父様!」
 そのように言い放ち、シャーリが近づこうとするが、
「おっと今度こそ動くなよ。今度は、腕を撃つ。四肢を奪った後は頭だ。
どうせ、お前達は、『ジュール連邦』からも、『WNUA』からも攻撃される運命だ。どうするつもり
だ?私が連邦の軍に連絡したおかげで、この『エレメント・ポイント』の位置は特定され、お前達
は包囲される事になるぞ。
 二つの軍に攻撃されれば、幾ら能力者を持つお前たちとて適うはずがない。
 所詮、私はただの潜入、そして連絡係にすぎない。だからどうなっても良いんだよ。だがな、
ベロボグ・チェルノ。お前だけはどうしても私がこの手で始末をつけたくてな」
 ストラムがベロボグの耳元で囁くように言うと、
「『ジュール連邦』の亡霊めが。過去の幻想にとりつかれおったか。お前達が覇権を成す世な
ど、もはや存在しない」
 ベロボグはそのように答えるのだった。満足に体を動かすこともできない体、更に足を撃た
れている彼だったが、その言葉には確固たる意志があった。
「俺の目的など、そういう事ではない。ただ任務に忠実と言うだけさ。だからこんな体になって
も、俺はここに来たんだ」
 そのようにストラムは言うのだった。警告アラームが鳴り響く中、誰も動くことができない状態
が続いた。



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