レッド・メモリアル Episode23 第4章


ボルベルブイリ WNUA軍情報部

 《ボルベルブイリ》の『WNUA軍』情報本部では、赤い閃光を放ちながら、大きくその姿勢を
傾けている、『エレメント・ポイント』の建物が、大型光学画面に映されていた。それは衛星から
の画像であり、その情報部にいる者たちの前に映し出されている。
 だが、情報部員たちは、そのベロボグ・チェルノの王国が崩れ去っていく姿を、ただ見ている
事はできなかった。
 現在、彼らに差し迫っている危機が幾つもあった。その内の一つ、ベロボグ・チェルノの子供
達を、このまま無事に救出できるかにあった。
 彼らはテロリストではないが、重要な情報源になる。
「おい、リー!リー!聞こえるか!」
 タカフミとフェイリンは2階のブースで籠っている事もできず、1階のメインフロアに降りてき
て、そのように通信機に言い放っていた。
(あ、ああ…、何とか、聞こえるが…。脱出経路を教えてくれ…)
 通信機の状態が良くない。タカフミの隣では、光学パットを使って、フェイリンが必死になって
通信機の状態を戻そうとしているようだが、何か、妨害電波のようなものに邪魔され、上手くい
っていないようだ。
「おい、リー・トルーマン君。『レッド・メモリアル』は回収できたのかね?」
 そう言って割り込んできたのは、この情報部を仕切っているベンソンだった。彼はリー達の命
よりも、『レッド・メモリアル』の方を優先するかのような口ぶりだった。
(…かい、した)
 リーから雑音と共に声が返ってくる。
「おい?何と言った?しっかり答えろ、『レッド・メモリアル』はどうしたんだ?」
(全て、破壊した。そうしなければ、アリエル達を助ける事はできなかったからだ!)
 そのように帰ってくる声があった。すると、ベンソンは一瞬、衝撃に取られたような顔をした
が、
「何だとう!お前、自分が何をやったか…!」
 そのように言うが、間に割り入ったのはタカフミだった。
「俺達は、軍人じゃあない。それに俺達が協力するのは、ベロボグ・チェルノの身柄の確保であ
って、『レッド・メモリアル』については情報を与えたが、回収するという任務は負っていない」
「しかしだ!」
 ベンソンは言い放つ。たたき上げの軍人らしく、NK人のタカフミよりもずっと背が高く大柄だ
った。
「それよりも、今は、多くの人を助けるべきではないでしょうか?ベロボグの子供達から情報を
聞き出せるかと」
 フェイリンも合わせていった。彼女は、光学画面を素早く動かし、リー達の脱出経路を探りつ
つ、そのように言っていた。
「しかし我々の任務は!」
 ベンソンが声を張り上げようとした。その時、別の情報官が声を上げた。
「ベンソン大佐!間もなく、『ジュール連邦』残党軍のV5型戦闘機3機が、交戦範囲内に入りま
す。交戦しますか?命令を」
 それは、今抱えている危機の一つだった。ベロボグ・チェルノの残した莫大な遺産を狙うハイ
エナのように狙って来る、残党軍が、再び『WNUA』側に攻撃を仕掛けてきたのだ。
「それは大統領命令にゆだねる」
 ベンソンはそれに対して命令を下せる立場ではなかった。全ては大統領の決断に従うしかな
い。



『エレメント・ポイント』

 激しい轟音が、施設全体を揺り動かしている。それだけではない、この施設全体が大きく傾
き出しているのだ。
 海上にある施設全体が、そのまま海中へと横倒しになりながら没していこうとしている。さっき
から警報も鳴りっぱなしだが、それさえもだんだんと機能しなくなってきているようだ。
「おい、この先の通路も瓦礫で塞がっている。どちらへと向かったらいい?」
 リーは無線通信を使って、タカフミ、フェイリンのナビゲートを受けようとした。彼やハワードも
携帯端末に地図をダウンロードしてあるが、タカフミ達ならば、施設の全体の倒壊の様子か
ら、脱出経路を割り出すことができる。
(その通路を右だ。緊急脱出エレベーターがある。10人乗りのな)
 タカフミからのその言葉に、リーは素早く動こうとしたが、手が重い。彼が引っ張っているアリ
エルの足取りが重いのだ。
「さあ、急いで」
 リーは彼女にそのように言った。放心状態になっているのか、目が少し虚ろで、目の前にあ
るものを現実として理解できていないかのようだ。
「え、ええ…」
 アリエルは何とかそう答えているようだった。無理もない、ほんの一か月前までは、普通の高
校生として生活をしていた彼女は、実の母と父の死の現場に直面し、目の前で姉妹二人の最
期を見たのだ。
 ショックでその場から動けなくならないだけ、脱出という状況の今ではましなくらいだ。だが、
急がなければならない。
「おい、リー!早くエレベーターに乗らないといけないぞ!」
 ハワードはそう言って、他のベロボグの子らをエレベーターに乗せているところだった。彼ら
も、『レッド・メモリアル』の接続から強制的に引き離され、まだ頭に重い痛みを感じているよう
だった。
「大丈夫です、私は、大丈夫」
 そう言いながら、アリエルはリーに手を引っ張られて、エレベーターの中へと入りこんでいっ
た。
 緊急脱出用エレベーターは、建設現場の中にあるようなリフトだ。10人乗りといったが、リー
とハワード、部隊隊員、そしてアリエル、ジェフを含めたベロボグの子らを乗せるととても窮屈
だった。
 それも施設全体が斜めに傾斜しているためか、エレベーターは若干傾斜をしている。
「外のヘリには待っているように伝えてあるか?」
 と、エレベーターの中でリーはハワードに尋ねた。だがハワードは彼の事を無視するかのよう
に顔をそむける。
「おい、どうなんだ?」
 するとハワードは、
「お前は『レッド・メモリアル』を破壊した。これが何を意味するか分かっているのか?お前は命
令を無視した!」
 そのようにリーにかみつくかのように言って来る。
「いいや、そんな命令など受けてはいない。さっきも、情報部の上官に言ったが、我々の命令
は、ベロボグの計画を食い止める事であって、『レッド・メモリアル』の確保など、視野には入っ
ていないのさ」
 リーはそのように言った。だが彼の眼には確かな決意の色が現れている。
「軍で上官からの命令に逆らえば…」
「私は軍人じゃあない。だから君達の指図は受けない」
「貴様、偉そうに…!」
 言い合うハワードとリー。その様子に、あくまでベロボグの子であるという以外は普通の子供
達でしかない者達は、恐れを感じているようだった。
「おいおい、お二人さんよ。今、そんな事を言い合っている場合かよ。皆が怯えちゃっている
ぜ」
 間に入ったのはジェフだった。
 彼は所詮若造でしかなかったが、言う事はもっともだった。この場でいがみ合っていても仕方
がない。今は脱出に集中しなければならないのだ。
「いいか、ここを出たら、貴様の責任はきちんと払ってもらう」
 念を押すかのようにそう言い放つハワード。
「ああ」
 リーは聞こえてか聞こえずか、そのように言うのだった。
 エレベーター全体が揺さぶられる。そしてどんどん施設の傾きは続いているようだった。間違
いなく崩落してしまう。それは明らかだろう。
「よし、到着した、急げ!急げ!」
 エレベーターが一番上に到着するなり、ハワードはベロボグの子らを先導して、急いで移動し
出した。
 最初は戸惑っていたアリエル達も、この施設がどんどん崩壊していく事を知り、今は脱出する
しかないと理解してきているようだった。
 彼らも崩落していく施設内を走り、屋外へと出た。肌寒い屋外。防寒着も無しで飛び出してき
た彼らは、肌を突き刺すような寒さを味わうが、今はそれどころではないのだ。
「急げ!ヘリに乗り込む!急げ!」
 どんどん施設全体が傾いており、今では10度ほどの傾斜ができていた。リーとハワード達が
ここへと乗り込んできたヘリは発進の構えを見せている。すでにいつでも飛び立てる状態だっ
た。
 施設の鉄骨の一部が崩落し、背後から一行を急き立てるかのように、激しい音を立てて崩れ
ていく。
 元は石油採掘基地であったこの施設の鉄骨全体がひしゃげていくかのように、どんどん崩落
をしていく。
 そして不思議な事に、空が赤い色に染まっていた。
 崩れていく施設全体も赤い色に染まっており、リー達はそれはこの施設の警報アラームが赤
色の警戒色に染め上げているものだとそう思っていたが、そうではなかった。
 『エレメント・ポイント』の施設全体から、赤色の光が溢れだしているのだ。
「これは一体、どういう事だ?」
 リーは思わず足を止めてそのように言っていた。
「おい!お前も早くしろ!」
 赤色のレーザーのような閃光が溢れだし、それが天高く伸びあがっている。これが、ベロボグ
の求めていたものなのか。そのエネルギー体が臨界状態に達して、このように外へと溢れ出し
てしまっているのか。
「早くしろ!」
 すでにヘリに乗り込んでいるハワードとアリエル達、そして部隊隊員達。最も遅れていたのは
リーだった。彼は赤い光に気を取られつつも、急いでヘリへと乗り込んだ。
「出せ!出せ!これで全員だ!」
 ハワードは叫ぶ。ヘリが離陸を開始した時、すでに、ヘリポート部分は半分以上が崩落して
海の中へと落下していっていた。
(こちら本部!『エレメント・ポイント』では爆発が起きている模様、急いで脱出せよ!)
 ヘリの無線に届く本部からの声。
「了解!」
 緊迫した状況下の元、ヘリは何とか離陸し、『エレメント・ポイント』を脱する事ができるようだ
った。
 ヘリに乗り込んだ全員の無事を確認したハワードは、無線に向かって言う。
「こちらハワード。私と、リー・トルーマン、隊員3名、ベロボグ・チェルノの子供8人を救出した。
負傷者は2名。いずれも軽症」
(了解。付近を航行中の航空母艦セフィロンへと向かって下さい)
「了解した」
 と、ハワードが本部へと連絡を繋いだ時だった。突然、警報音と共に、大きくヘリが傾き出し
た。
 がくんとした衝撃に、その場にいた者達は慌てふためく。
「一体、何が起きた!」
 叫ぶハワード。
「『エレメント・ポイント』から射出している、正体不明の赤い光によって機体が損傷を受けた模
様です!」
 ヘリを操縦している隊員が言う。
「航空母艦まで行けるか?」
 そのように尋ねるハワード。
「とても持ちそうにありません!不時着するしか!」
 その声を聞きながら、リーは『エレメント・ポイント』の方を見た。だんだんと離れていく施設。
そこからは乱反射をするかのように赤い光が溢れている。レーザーのような直線的な光が、天
高く広がっている。
 海面が迫ってきている。どうやらヘリは不時着するしか方法が無いようだ。
「皆!衝撃に備えろ!」
 ハワードが叫んだ。リーはアリエル達を庇うかのような姿勢になった。
 ヘリは不時着の体勢に入る。赤い光はヘリを追い立てるかのように次々と広がっていた。
 ヘリが不時着に入ろうとしたその時、突然、激しい閃光を放ちながら、『エレメント・ポイント』
の施設が爆発した。
 赤い閃光を解き放ちながら、爆風お爆炎を周囲に吐き散らしていった。
 悲鳴と共にヘリは吹き飛ばされていく。海面が寸前に迫って来ていたが、不時着をする事も
できずに爆風にあおられていく。
 リーは何とかアリエルを庇おうとするが、激しい衝撃は彼らをも包み込んでいった。
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