レッド・メモリアル Episode23 第5章


2:47 A.M.
ボルベルブイリ WNUA軍情報本部

「救出活動は進んでいるか?」
 ベンソンにそのように尋ねたのはタカフミだった。『エレメント・ポイント』は爆発し、そしてリー
達との通信も途切れてしまっている。
「ああ、今のところ、リー・トルーマン、アリエル・アルンツェン、ハワード達6人を救出したが、現
場は極寒の海だ。全員を救出できるかどうかは分からん」
 ベンソンは追っ払いたそうな声でタカフミにそう言うのだった。彼にとっては、リー達がどうなっ
てしまったかという事よりも、もっと危惧すべきことがあった。
「ベンソン大佐。『ジュール連邦』側のV5戦闘機との交戦に入りました。こちらは空母からの地
対空ミサイルで攻撃をしています」
 と部下に言われる。
「ああ、全て撃墜するようにとな。だが、ただ戦闘機を飛ばすだけが『ジュール連邦』側の目的
とは思えん。あらゆる攻撃に警戒しろ。首都への攻撃、テロ、核攻撃も含めて全てだ」
 事態は双方から切迫してきている。ベロボグ・チェルノが死亡した以上、『ジュール連邦』が彼
の残した遺産を奪い取ろうとしている。
 そして今は戦時中である事に変わりはない。その為には追いつめられた残党達が何をしで
かすか分からなかった。
「了解!厳戒態勢を維持します」
 タカフミもその事は理解していた。だが、彼には彼のすべきことがある。
「ベンソン大佐。『エレメント・ポイント』から今溢れ出しているエネルギー体は非常に危険なもの
だ。爆発は一種の臨界爆発で、周囲の街にも影響が出ている。いずれはこの《ボルベルブイ
リ》にそのエネルギー体が到達する」
 そのようにタカフミは言った。
「そのくらいの事は分かっている。だが、対処法が分からない以上は…」
「ベロボグが言っていた言葉を忘れたか?制御装置があって、それを操作する事ができるの
は、『レッド・メモリアル』を操れる者だけだと」
 するとベンソンは、
「ああ、その通信は私も聞いていたさ。救出された者達に期待をするしかあるまい」
 そう言ってベンソンは、フロアの中央にある大型の光学画面へと目をやる。そこでは、随時、
『ジュール連邦』残党軍からの攻撃の情報が入るようになっていた。
 危機的状況はまだ続いている。『エレメント・ポイント』での出来事、そして『ジュール連邦』側
での出来事。その危機を回避しなければならないのだ。
「リー・トルーマンに連絡はついたか?」
 そうベンソンは部下に尋ねるのだった。

ジュール連邦北海域海上 タレス公国軍航空母艦セフィロン

 リー、そしてアリエル達は、大型の航空母艦によって救助されていた。爆発による衝撃で、ヘ
リは海面に墜落したが、すでに不時着姿勢にあった事、そして海面からさほど高くない位置か
ら落ちたために、彼女らは軽傷で済むのだった。
 しかし、氷点下の極寒の海に落ちてしまったのだ。長時間海に浸かっていれば凍死してしま
うほどの冷たい海。アリエルはまだ毛布に包まったまま体を震わせていた。
「傷の手当てを済ませて、問題がないなら暖かい湯に入れてやれ」
 そのようにリーは航空母艦にいる軍の兵士に向かって言う。
 彼らはまだ救助されたばかりであり、極寒の海上にいた。リーも冷たい水の中に落ちていた
が、アリエル達の事を気遣っていた。
「おい、アリエル。大丈夫か?」
 航空母艦のタラップを上っていきながら、アリエルがじっと海の彼方を見ている。体ががたが
た震えているようだったが、その視線の先には、『エレメント・ポイント』の爆発した跡地があっ
た。
 そして今、その地点からは、まばゆいばかりの赤い光が放たれている。それはとても明る
い。まるで太陽が昇っているかのようだった。深夜の海は明るい灯りに照らされている。
「今は、気にするな。終わったんだ」
 そのようにリーは言うのだった。
 そしてアリエルと共にタラップを登ろうとするが、その時、軍人たちが、アリエルらの行く手を
阻んだ。
「おいおい、どうした?早く暖かい飲み物でも飲ませてやらないと凍死してしまうだろう?」
 と、リーは軍人たちに向かって言う。
「全員連行するように言われています。ベロボグ・チェルノの関係者だからと」
 軍人はまるでロボットのような声でそう言って来るのだった。すると、リーはアリエル達よりも
前に立った。
「おいおい、待て。彼女達は、ベロボグ・チェルノ達に利用されていたに過ぎない。だから、テロ
とは関係が無い、被害者だ」
 しかし軍人たちはリーよりも更に冷静だった。
「重要参考人です。あなたも。これから取り調べを行います」
 すると、リーは珍しく嫌悪も露わな表情を見せた。
「お前もあの海の冷たさを味わってみるか?」
 と、リーは言い放つが、
「おい、喧嘩腰になるな。拷問しようってんじゃあない。あんたも、きちんと暖かい所で暖かいコ
ーヒーでも飲みながら、きちんと人道的に扱う」
 背後からハワードが言ってきた。彼も極寒の海へと落ちて、身体が震えているようだった。
「ああ、そうか。長い夜になりそうだしな」
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