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レッド・メモリアル Episode23 第6章
(まずい状況だ。アリエル達は、ベロボグ・チェルノがテロリストと知っていた上で、しかも自らの
意志で彼に協力をしたと判断されている。このままじゃあ、テロリストの共謀罪になってしまう)
ようやく外部との連絡をリーが許されたのは船の上へと引き上げられて、1時間ほどたったこ
ろだった。
極寒の海の中に落ちた彼だったが、今では船の中にあったシンプルな服を着ていた。ベロボ
グの子供達は、アリエルも含めて、未だに寒さに身を震わしており、まだ熱い風呂に浸かって いる者もいた。
「つまり、国家反逆罪で起訴されるという事か?」
だがリーは冷静な声でそのように、タカフミへと答えていた。
(あんたもだよ。命令無視をしただろう?)
「私は軍人じゃあないんだがな」
と、すかさず答えるタカフミ。
(あのな、軍を裏切ったお前の気持ちも分かるんだがな。お偉いさんがそんなに頭が柔らかい
わけがないだろう?『レッド・メモリアル』を破壊したのはまずかったな。組織もあんたを見限っ ているぞ)
そのようには言いつつも、タカフミはリーの事を心配しているようだった。
「組織も、国も、軍もない。人の命がかかっていた。そしてベロボグが残したものは、もっと多く
の人間の命に関わってくる」
リーは自分の事など構わないという様子だった。その目は決意に満ちていた。迷い、恐れな
どは一切ない。
(お前がそんな事を言うとはな。全く、世も変わったな)
タカフミはそのように言ってきたが、リーは至って真面目だった。二人のあいだに沈黙が走
る。
(あの事か?俺があんたを組織に誘った時の、あの事か)
と、気遣うかのようにタカフミは言ってきた。リーはその顔に緊張を走らせる。冷静なサイボー
グのような彼にしては珍しい緊張だった。リーは目をつぶり、タカフミに言う。
「その話はしないでくれ」
リーは言った。彼がそう言った時、空母にいる軍人が厳しい顔付きでリーのところへとやって
きた。
「時間だ。それ以上の通話は許可されていない」
と、感情もないかのような声でその男は言ってくる。
「すまないが、そちらで何とか対処をしておいてくれ、アリエルの事も」
(ああ分かった。頼りにしておいてくれ)
そして通話は切れた。電話機を置くと、リーの背後から、彼をまるで逃さないかのように、頭
一つ背の高い軍人が立ちはだかる。
「さあ、行くぞ」
そうリーは言われ、連行されるのだった。
なるほど、見事なまでの犯罪者扱いというわけか。リーは思わず苦笑していた。
アリエルは小さな窓しかない、狭い部屋に入れられていた。そこに一人のスーツ姿の男が現
れて、テープレコーダーをテーブルの上に置く。
一ヶ月前、『WNUA』側に身柄を預けられた時から、何度となく繰り返されてきているこの行
いは、取り調べというものだ。
だが、今までアリエルは被害者として聴取を受けてきただけだ。今は違う。アリエルは犯罪者
として取り調べを受けなければならない。
「君は保護観察中に、監察官のもとから勝手に逃げ出した。どういう事か、分かっているな?」
「逃げた、わけではありません」
スーツ姿の男が言ってくる言葉も、高圧的なものだった。だが、アリエルはひるまずに答え
る。
だが、スーツ姿の男は、その無機質な顔をアリエルへと向けながら、さらに尋問を続けた。
「一応言っておくならば、君は未成年者とされている。『ジュール連邦』ならばテロリストに加担し
たとなれば、子供でさえ銃殺刑になるだろう?だが、我々の国ではそのようなことはしない。死 刑制度もない。
しかしだ。テロリストに対して容赦はしないところは、『ジュール連邦』と同じだ。そして今、『ジ
ュール連邦』は我々の影響下にある」
アリエルは黙ったままだった。
「君は、国家反逆罪に問われる。重い刑になる。それこそ、一生刑務所から出られないほどの
だ。死刑制度がなくても、終身刑というものはある。犯罪歴の無い、刑務所の経験もない君とし ては、死刑よりも辛い刑務所暮らしが待っている」
その男はアリエルをじっと見据えてそのように言ってきた。彼はリーなどよりもずっとサイボー
グのように見えていたが、その言葉の背後には挑発的な何かが感じられる。
「私を脅しているんですか?」
アリエルは言ったが、男は呆れたように言ってきた。まるで、子供を相手にする事がうんざり
であるかのように。
「私はね、君に現実というものを言いに来たんだ。あまりにも君が非現実的な理想に走ったも
のなのでね。君の責任能力等を考えると」
「そんなことよりも、現実と言うならば、私の父が残したものをどうにかしなければならないので
はないですか?」
真剣な声で、しっかりと相手を見据え、アリエルはそのように言った。私はあなた達よりも遥
かにあのエネルギー体の事について知っている。それが今、どれだけ危険な状態に陥ってしま っているかという事についても。
「弁護士に期待しても無駄だぞ。ここにはすぐには来れないからな」
きっぱりと男は言ってくる。
「今は私のことなんかよりも、あのエネルギー体の危険性を考えてください。『レッド・メモリア
ル』を失った今、制御不能にあったあのエネルギー体は非常に危険な状態に陥ってしまってい るんですよ」
それが今ではアリエルにははっきりと分かる。危機感が感じられる。まるで、あの赤い光を放
つエネルギー体自体が、悲鳴をあげているかのように聞こえるのだ。
彼らはこの声が聞こえない。だからこんなに悠長に構えていられるのだ。
「君の処遇は、軍が決める。べロボグ・チェルノに関係するすべてのことを話せ。その方が身の
ためだ」
と、男は言ったが、
「私の父は私の見ている目の前で死にました。実の母も一ヶ月前に私の目の前で死にました。
私が父の組織について知っている事といったら、それはあの『エレメント・ポイント』という施設と 共に、跡形もなく消えてしまいましたよ。それ以上何があるんです?」
「『レッド・メモリアル』という装置については?まだ他にもあるのか?」
アリエルの言葉を遮るかのように言ってきた男の言葉。するとアリエルは呆れたように言っ
た。
「やはりあなた達もその事を話すんですね。そして私達にその事を尋ねてくる。私の知っている
ことなら、『レッド・メモリアル』はもう全て失われて海の底に沈んでいるという事。だから、『エレ メント・ポイント』という巨大な装置はその制御を失ってしまい、暴走を始めている。そのことだ けです。それ以上のことは、もう私が信じられ、託す事ができるのは、リー・トルーマンという人 だけです」
アリエルはただそう言った。
「黙秘するというのか?懸命じゃあないな?」
男はそのように言うのだが、アリエルの意志は硬く、彼女はそれ以上、その男の前で口を開
くことはしなかった。
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