レッド・メモリアル Episode24 第2章


 作戦が実行者がリーということで決行されることになり、リーやアリエル達は一旦拘束から解
放され、作戦の準備が行われる事になった。
 《エレメント・ポイント》への潜入作戦は、日の出までには決行される。それだけ、危機的な状
況が続いていると、レーシーたちから報告があった。
 一刻も早く、行動をしなければならない。
 だがそんな中で、リーはタカフミに、軍の回線を使って電話をかけていた。
「“長老”が女で意外だったか?」
 唐突な第一声がそれだった。電話越しにタカフミがまずそう言ってきた。
「いいや、そうでもないが。あんたが、あの人と組んで組織を動かしていたとは思っていなかっ
た」
 その事はリーも知らない事だったのだ。組織という存在のバックに誰がいるのか、それはタカ
フミ以外は誰も知らなかった。
「あの人は今は隠居している。実際、俺もどこにあの人がいるのか知らないんだ。顔を見たの
だって久しぶりだ。変わってはいなかったがな」
「そうか」
 なるほど、組織というものの成り立ちが、リーにもよくわかったような気がする。
 組織というものは元々、闇の組織としてできていたわけではない。政治や経済を担っていけ
るだけの者たちが、法や体制を越えて影響力を持つために作られたのだ。
 しかしながら、世間は組織を許しはしないだろう。法や体制というものは、必ず必要なもので
あり、それが一度破られることがあれば、次々と法や国の規律とシステムが崩壊する。
 元々組織は存在してはならなかったのか。
 この作戦を最後に、それが分かるはずだ。
「作戦の成功は、お前にかかっているぜ。『組織』は軍に対してありとあらゆる情報を提供し
た。そしてしばらく後に、永遠に解散する。誰も俺達の後を追うことは出来ないし、今回の作戦
や、組織のしてきたことが世間に知られるようなこともない」
 タカフミはそう付け加えた。
「この電話は、間違いなく聞かれているな」
 と、リーは言う。
「ああ、もちろんだ。今更言うまでもないだろう」
 タカフミはそう言った。軍は確かに自分たちに恩赦を出すとは言ったが、それは名目状のも
のであり、
 本来は自分たちは監視されている。これからも軍はその監視を続けていくつもりだろう。
 しかしそのようなものに屈する『組織』ではなかった。
「電話はこのまま切るぞ。ああ、あと、アリエルをよろしくと、彼女のお母さんから聞いているか
ら、よろしくな」
 そうタカフミは、リーに言ってくるのだった。
「ああ、分かっている」
 タカフミは電話を切るのだった。そして向き直る。彼がいる部屋には、もう一人、アリエルがい
るのだった。
 リーは、アリエルと共に同じ席についた。
 そこにはコーヒーが置かれており、軍艦の中という無機質な空間ながら、居心地のよい雰囲
気を保ってくれている。
 とりあえず、大統領から恩赦が出されたということもあり、警戒は緩められている。
 しかしこの部屋のどこかにも、監視カメラが設置されているのだろう。会話も聞かれているに
違いない。
「電話は終わりましたか?」
 そのようにリーに言ってきたアリエルは、じっとテーブルの空間に並べられた光学画面を見て
いた。
 まるで勉強でもするかのような姿であり、彼女は一心不乱に作戦計画書を見ていた。
「君が読んでも難しくて、理解できないだろう。私に任せておいて、今はゆっくりとくつろいでいれ
ばいい」
 リーはアリエルを気遣いそう言った。テーブルの上にはきちんとコーヒーも置かれている。
 そう言えば、アリエルも自分も昨日から全く眠っていない。お互い、疲労も相当に溜まってい
るはずだが、緊張感のせいか、全くそうしたものを感じることはない。
 アリエルは、世界の行く末、そして自分の行く末がこの作戦にかかっているということをしっか
りと自覚して、そのために、一心不乱に計画書を読んでいるのだ。
 だが、そこには軍の専門用語ばかりとなっており、一般人にはまず理解できないだろう。
 アリエルはそれを必死に理解しようとしているのか。リーが止めようとしても、アリエルは読む
のを止めなかった。
「君は、休んでいればいい」
 リーはそう言って、アリエルが見ている光学画面を下ろさせた。そして画面をつまみ、自分の
方へと持ってくるのだった。
「いいんですか。こんなに私はゆっくりしてしまって」
 アリエルがそう言う。目の前に置かれたコーヒーなど、全く手につけていない様子だ。
 今、悠長にコーヒーなど飲んでいられる状況でないことくらいは、リーにも分かっていたが、だ
からこそこうして心を落ち着かせておかなければならない。
「作戦の具体的な内容は聞いただろう?」
 と、リーは尋ねた。
「えっと、小型潜水艦で、海中に沈んだ『エレメント・ポイント』の中へと潜入していくということで
すね」
 リーは自分の方に回してきた光学画面を動かしながら言うのだった。
 そこにはこの空母に備え付けられている潜水艦の姿が映っている。しかしその潜水艦の姿と
いうのも少し異質だった。
 あたかもロケットのようになっていて、その先端部分が円錐形に尖っている。まるで砲弾を発
射するかのような構造になっているのだ。
 リーは一般人であるアリエルは知らないであろう、その潜水艦の説明を始めた。
「その小型潜水艦だが、特殊なものとなっている。言ってみれば、ドリルのようなものの中に入
ることになる。本来は奇襲作戦用に開発されたものだが、突入時の衝撃も激しくて、なれない
君には乗り心地は悪いだろう。
 何しろ、作戦自体が即興で作られたものだから、穴が結構多い。しかし作戦自体は成功しな
ければならない」
 リーはそう言って立ち上がった。
「作戦開始は午前6時ですか、もうあと30分もありませんね」
 アリエルは顔を伏せたままそういうのだった。
「君は無理をしなくていい。ただ、制御装置に接続して、私には理解することはできないが、そ
れをストップさせればそれで済む。その後に行くところは、軍が決めてくれるだろう。君はこれ
からは、お義母さんとともに、平和に暮らすんだ」
 リーはじっとアリエルを見据えてそう言ったが、彼女は顔をあげてリーを見てくる事はなかっ
た。
「本当にそうなると思いますか?私のこの頭の中に埋まっているものは、一生、私を逃してくれ
ませんよ。結局は、私の死んでしまった父に従っていた者達も、この国も私を追ってくるのでし
ょう?」
 そう言いつつ、ようやくアリエルは顔を上げてきた。
「そう言いつつも、君は作戦に参加しようと言ってきた。君はこの作戦への参加を自分から希
望しただろう?そのことを君のお義母さんにも伝えてもらったがな、大反対だったそうだよ。空
母へ乗り込んできそうな勢いだそうだ。
 君はこのまま、安全に護送されて、お義母さんと共に数時間の内に、べロボグの残党達のい
ない所へと逃れることもできた」
「逃げようがないからです。どこまでも追ってくるのならば、立ち向かっていかなければならな
い。せめて、この作戦を成功させるために、私は動かなければならない。解決しなければなら
ない。そう思っているのです」
 そうアリエルが言い、リーの方をじっと見てきた。少しの間があった、その後に、リーはアリエ
ルに言うのだった。
「君は、似ているな。私にも、それに」
 リーがそこまで言いかけると、アリエルは尋ねてくる。
「それに、何です?」
 その時、部屋の扉がノックされ、そこから軍人の一人が姿を見せた。
「時間です。これから“デイブレイク作戦”が実行されます」
 そのように義務的な口調で、その軍人は言ってくるのだった。
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